嫁の母がやってきた 旦那様は7歳児 After   


 


 

その日、承太郎はジョセフの日課である夕方の散歩に付き合っていた。
最近、海洋学者となる夢をかなえるために、アメリカの大学進学のための勉強を始めた承太郎だが、それでもその合間を縫って、長年の片想いが実ってやっと両想いになれた想い人とのコミュニケーションは、欠かさずにいた。
しかしそんな穏やかな時間をぶち壊す「ある事件」が起きたのだ。

「…?」

少し先を歩くジョセフの様子を確認しつつ、のんびりとその後ろを歩いていた承太郎は、不意に彼が立ち止まってある一点をじっと見つめていることに気が付いた。
そこには、腰まで届く長い黒髪にサングラスをかけた、スレンダーな美女が立っていた。
年齢は30代後半から40代前半、というところか。
「じじい…あれは」
誰だ?と問おうとした瞬間、女はつかつかと速足で歩み寄ってきて、いきなりジョセフにがばりと抱きついた。

「―――っっ!!???」

当然のことながら、承太郎の後ろ髪が、怒りと嫉妬に毛羽立った。
しかも女はただ、抱きついているわけではない―――明らかにジョセフの唇を盛大に奪っているのだ。
「てめえっっ!!」
例え相手が誰だろうと許しがたい。承太郎は掴みかかって引き離そうとしたが、その前にわけのわからない力に体を弾き飛ばされた。
「ぐっっ!!」
「承太郎っっ!」
咄嗟にジョセフは承太郎を振り返ったが、どうやら女にがっしりと抑えられているのか、それとも振り払う気がないのか、駆け寄ってはこない。
その態度は、承太郎の怒りを煽った。
承太郎はすぐさま起き上がり、2人を睨みつける。


「じじい、どういうことだ―――『浮気』だとしたらただじゃあおかねえぞ」
「浮気って…あ、アホ言うな!彼女、リサリサはなあ!!」
しかしそんなジョセフの台詞を遮って前に出て、「リサリサ」と呼ばれた女が言う。
「ただじゃあおかないって、どんなふうに?―――やってみなさい」
「っっっ!!!」


明らかに「挑発」とわかる台詞に、承太郎の脳が焼き切れ、スタープラチナが現れる。
しかし女はスタンドが見えないのか、それとも動じないのか。承太郎から全く視線を外そうとしない。
前者なら良いが、後者なら考え無しにスタープラチナをけし掛けるのは危険だった。
承太郎は油断できない『敵』の登場に、眉根をつりげる。

「リサリサ、承太郎、やめるんじゃっっ!!」

ジョセフは必死に声を張り上げるが、一色触発のこの状況では、どちらも気をそらせるはずはない。
けれどこのままでは、戦闘が始まってしまうのも時間の問題だった。そうなれば、どちらも無傷では済まないだろう。
ジョセフはため息をつくと、少し顔を赤くし、唇を噛んだ。
優れた頭脳の持ち主であるジョセフには、今の解決方法がすぐさま頭に浮かんだが、それを実行するのは、どうにも気が進まなかった。
しかし結局その方法以外はなさそうであったため、仕方なくジョセフは口を開き、その台詞を口にしたのだ。


「やめてくれ『MUM』―――その…そいつは、承太郎はわしの、『The most important person』なんじゃ」


「「――――っっっ!!!!!」」

照れの混じった小さなつぶやきだったというのに、それは二人の耳に確実に届き、同時に二人を睨み合った体制のまま、歓喜の渦に突き落とした。

(MUM(母さん)―――ああ、なんて良い響きなのかしら!まったくジョセフったら、いつまで経っても素直に呼んでくれないのだから!でもそんなところが、可愛くて仕方がないのだけど)
(The most important person(一番大切な人)か―――全く、じじいはたまにやけに素直になるから参るぜ。ご褒美に今夜はうんとサービスしてやるぜ。覚悟しとけよ)

無表情な二人が、しかし狙い通りあっさりと戦いどころではなくなったらしいのを見てとって(※でも表向きは全く表情が変わっていない)、ジョセフはほっと息をつく。
この辺、ジョセフは実に良く、この二人の性格を把握していると言えよう。
ジョセフは未だにスタープラチナを出したままにしている承太郎に歩み寄ると、リサリサを指していった。

「承太郎、こちらはエリザベス・ジョースター―――わしの実の母じゃ」

承太郎はその言葉に一瞬目を剥いたが、そういえば…と昔ホリイに聞いた話を思い出す。
ジョセフの母は優れた波紋の戦士であり、未だにその修行を続けているそうだ。そのため実年齢より桁違いに若いと、聞いたことがあった。
それにしても、ここまで「若い」とは思わなかったが。
まるっきり彼女がジョセフの娘のように見える。

「リサリサ…こちらは」
「スージーQとホリイから聞いてるわ…承太郎でしょ?貴方の『夫』になった」

その言葉にジョセフは息を飲んだ。
リサリサが訪ねてきたのは、おそらくスージーQに今回の顛末を聞いたためだろうとは予想してはいたが。
やはりというか、穏便には済みそうにない。
その瞬間、承太郎とリサリサの視線が合わさり、火花が散った気がして。


ジョセフは深くため息をついた。

2.

 

「おばあ様、どうぞ」
「ありがとう、ホリイ」

外見的には同い年くらいのホリイが、それに不似合な台詞と共に紅茶を差し出すと、エリザベスことリサリサがにっこりと笑ってティーカップを手に取る。
そして、絶妙な加減に入れられたお茶に口をつけてほっと息をついた。
「美味しい…相変わらず貴方はお茶を入れるのが上手ね」
「パパの仕込みですから」
「ふふ…そうね。ジョセフは昔っから紅茶を入れるのが上手だったわ」
ゆったりと流れる会話は、先ほど承太郎と対峙したときの剣呑さなど、欠片もない。
しかしリサリサはゆっくりとカップを置くと、口を開いた。

「今回こちらに来たのは、スージーQにジョセフの『夫』について話を聞いたからなのだけど…」
「承太郎ですね?おばあさまから見てどうです、私の息子は?」
「そうねえ…顔つきだけは一人前、といったところかしら?でも『私のジョセフ』を任すに足る男かどうか…」

その台詞に承太郎が気に入らげに眉を吊り上げたのがわかって、ジョセフはハラハラする。
顔つき云々より『私のジョセフ』という台詞にカチンと来たのは明らかだった。
しかしそんなリサリサに対して、ホリイはにっこりと笑って言った。


「おばあ様にそう簡単に承太郎を認めてもらえるとは、私も思っていません。でも、まずはこれを見てください―――これを見ていただければ、おばあ様も承太郎がパパの『夫』となることに、納得されると思いますわ。承太郎、カーテンを閉めて」


ホリイの指示に従い、承太郎がカーテンを閉める。
ホリイがリモコンを押すと、上からスライドが現れる。いわゆるホームシアターという奴だ。
ジョセフはホリイが何の映像をリサリサに見せるつもりなのかがわからず、事態を傍観しているしかなかった。
しかしジジ…という音と影の後、スクリーンに映像が映り、その映像の正体がわかった瞬間。

ジョセフは凍りついた。



『あ、あ!あア!―――ジョータロおっ!…はあ、んん、ああああアアア!!』



「ちょ、なっっ!?★kをいg▲ぴあ∴たbp@lぺt!!???」

画面いっぱいに映し出されたそれは、明らかにジョセフと承太郎の『夜の営み』を隠し撮りしたものだった。
承太郎に覆いかぶさられたジョセフが、快楽と涙でぐちゃぐちゃになった顔で、みっともなく女のように快楽をむさぼっている。
あまりのことに、ジョセフは一瞬意識を飛ばしかけたが、数秒後正気に戻って、当然のことだがホリイからリモコンを奪って、映像を停止しようとした。
しかしそれは何故か、承太郎によって阻止された。
承太郎はジョセフを自らとスタープラチナの力で拘束すると、その口を手でふさいだ。
「んー、んー!」と騒いでもがくジョセフを余所に、スクリーンの中では、相変わらずジョセフが、承太郎によって女のように啼かされていた。

『はあン…ア…承太郎、も、もうやめっ!…ふう…は、ああんっっ!』
『嘘つくなよ、じじい…もっとだろ?』
『あっ…いやあ…そこばっかり…んくう…uh…』
『ん?じゃあどこを弄って欲しいんだ?―――言ってみろよ』

突然の我が子のポルノまがいの映像を見せられたというのに、リサリサは動じた様子もなく、拘束されたジョセフを余所に、承太郎とジョセフの夜の営み鑑賞会は、その後数分間に渡り続けられた。
それを見終わり部屋の灯りがついた瞬間、リサリサはホリイに向き直ってぎゅっと手を握った。
その瞳は何故か、キラキラと輝いている。


「貴方の言うとおりだわ、ホリイ―――確かに承太郎はジョセフの夫にふさわしいようだわ。あんなに可愛らしく喘ぐジョセフがみられるなんてvvああ、幸せvvvv」
「そうでしょう、おばあ様―――このビデオを見せたら、ママも一発で納得したんです。パパを任せられるのは承太郎しかいないって!」
通常なら「ジョセフの『嫁』にこの映像を見せたのかよ!」というツッコミが入るところだが。
心の中とはいえそれを入れられる人物(※例 貞夫)は、ここには存在しなかった。

「…確かに私ももともと、ジョセフは『嫁』を貰うよりも『嫁』にこそなるべき子だと思っていたのです。ですが、なかなかふさわしい男が見つからなくて…ジョセフの夫にと密かに目論んでいたシーザーは死んでしまったし。スージーQは女ながらも中々の男前で出来た娘だったから、しぶしぶ納得したのです」

淡い想いを寄せていたリサリサに、こんな計画を練られていたことを知ったら、シーザーも草葉の陰で泣いているかもしれない(笑)
「でも盲点だったわ…こんな近くに、ジョセフの『夫』にふさわしい男がいたなんて―――何より承太郎はシーザーと違って、容姿だけじゃなく、ジョセフと並んでも見落とりしない体格ですものね。さすがあなたの息子ね、ホリイ」
「ありがとうございます、おばあ様」
「これで安心してジョセフを任せられるわ」

血のつながりとか、『祖父』と『孫』であるとか。本来ならその辺を突っ込みなり、問題視なりしなければならないところだろうが。
ホリイと同じく、リサリサにとっても、その辺はどうでも良いようだった。
彼女らにとって大事なのは、ジョセフがあらゆる意味で『愛されている』ことなのだ。
そして幸せであること。

「承太郎、今後もジョセフを…」

「よろしくね」と振り向いた場所には、すでに誰もいなかった。ホリイに視線をやると「ふふ…映像を見ていたら我慢出来なくなったみたいで。途中でパパを連れて出ていきましたよ」と笑った。
それに吊られてリサリサも笑った。

3.

 

「ひやっっ!!」


いつもの部屋に連れてこられてベッドに投げ出され、ジョセフは思わず声をあげた。起き上がろうとしたところを、すかさず体重をかけて、承太郎に押さえつけられる。
「な、何をする気じゃっ!?」
「おいおい、そんなわかりきったこと聞くんじゃねえよ」
焦ったジョセフの問いかけに、承太郎がにたりと笑って返す。
そう、わかりきった問いではあったのだ―――けれどこんな昼日中の、しかも同じ屋根の下に母がいる状況下で、これは止めて欲しいというのがジョセフの本音だった。

「あんな艶っぽいアンタを見せられちゃあ、欲情すんなってほうが無理だろ?」
「っ!それは―――大体、良く平気だなおまえ!あんなの録られて、他人に見せられて!!」
「ん〜、そりゃ気に食わなくはあるぜ?アンタのあんな顔、本当なら誰にも見せたかねえからな」
「…そういう意味じゃなくて、だな」

ジョセフは自分から振っておきながら、承太郎の台詞に顔を赤らめる。
承太郎とはすでに想いが通じ合っていたし、互いの気持ちも知ってはいたが、それでもこんなふうにあからさまに言われるとやはり恥ずかしい。
「でも、お袋たちはしょうがねえと思うようにしてる―――アイツらはアンタを深く愛してるからな。だからちゃんと俺がアンタを可愛がってるか、不安なんだろ。余計な心配ってもんだがな」

そういわれるとジョセフもそれ以上、文句を言えなくなる。
わかってはいるのだ。
ホリイもリサリサも―――そしてスージーQも、いつだって自分の幸せこそを、一番に願ってくれているってことは。
しかし。
「…だからってあんなもの…」
「クク…心配すんな。お袋の持ってる映像は、あれ一本だけだ―――それ以上は許す気はねえ。アンタは俺のもんだからな」
「…でも…」
「もう、黙れ」

承太郎はそういうと、ジョセフの唇を自らのもので塞いだ。
それ以上の抗議は、途端に続けざまに与えられた甘い口づけに飲まれて、意識の隅へと消えてしまう。
「…は…」
甘い吐息を漏らして、トロンとした目になったジョセフに、承太郎はくすりと笑い。
ジョセフの襟元を開いて、「夫」の当然の権利として、そこに唇を落したのだった。



*****



その頃、何往復目か(笑)の「承太郎とジョセフの愛の営み鑑賞会」を終えたその部屋では。

「それにしても、承太郎に啼かされるジョセフの、可愛らしいこと!―――ああ、承太郎が羨ましくて仕方がないわ!こんなジョセフを毎晩見られるなんてvvv」
「そうでしょう、おばあ様!私も悔しくって!!―――こんな可愛いパパを独り占めなんて、本当に承太郎はずるいわ!」
「そうだ。なんなら今からでも、二人の部屋に乱入してしまいましょうか?」
「まあ素敵!大賛成ですわ!!」

なんて、承太郎を激怒させ、ジョセフを羞恥のあまり、憤死させるに違いない提案が持ち上がり、反対者がいぬまま、可決されていた(笑)

ともあれ、二人の未来に幸あれ。



                         



                                              おわり


H2015.9.6(ピクシブより転載)

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