『うちの承太郎がこれほど可愛いわけがない』 パイロット版

  

  

それは、ジョセフとアブドゥルが次の街へ向かう列車の手配をしている間に、承太郎、花京院、ポルナレフの三人で、市場をぶらついていたときだった。
衣装だけでなく、食糧や民芸品。旅行者が目当とするものも大量に売っているこの市場は、だからこそ視界を遮るものが多い。
花京院とポルナレフの視界から、一瞬承太郎が消えたと思ったら、珍しくも承太郎の焦ったような声が響いてきた。
「「承太郎っっ!?」」
花京院とポルナレフは、あわてて承太郎の声がした通路に駆けつけた。
そこにいたのは、承太郎―――ではなく、馬鹿でかい学生服に埋もれた、かつて承太郎であっただろう「少年」だった。

「げげげげっっ!!これってまさか―――あのセト神の変態野郎の仕業じゃ!!!」
「え、じゃあもしかしてこの子って…承?」

ポルナレフの言葉に、花京院も襲撃者の正体には気づいたが、今の状況にはそれは事態の説明にはなるが、なんら役に立つことはない。
困惑して顔を見合わせる二人に、しかしさらなる混乱を招く事態が起きる。
自分をマジマジと凝視する二人をなんと思ってか、承太郎(現在、推定6、7歳?)がこんなことを言ったのだ。

「…お兄ちゃんたち、誰?」
「うそお!今回は記憶まで退化してんのかよっっっ!!??」
「ちょっ!と、とりあえず、ジョースターさんたちを呼んでくるっっ!!!」
「あ、おいいいっっ!!俺を置いていくなよおおおおお!!!!」

ポルナレフは追いすがったが、しかし時すでに遅かった。
この場合、承太郎の祖父であり、年長者でもあるジョセフを呼ぶのは正しい判断だろうが、出来れば自分を置き去りにしないで欲しかった。だって少年の承太郎なんて、どう扱って良いのかさっぱりわからないのだ。
きっと花京院も同意見だったため、面倒をポルナレフに押し付けたのだ。
(くっそお、花京院のやつ…)
腹はたったが、早急にこの事態をどうにかしなければならないのも確かだった。
ジョセフたちを連れて花京院が戻ってくるまでの間、子供の承太郎と、ここで無言で向かいあっているわけにもいかない。それにもし時間がかかるようなら、移動したほうが良いだろう。
承太郎を襲ったアレッシーは、現在のところすぐ近くにはいないようだが、おそらく弱体化した承太郎を狙ってくるに違いないのだから。

(…落ち着け、ポルナレフ。ジョースターさんはガキの頃の承太郎は、素直でとても良い子だったといってたじゃないか)

身内の欲目というのは少しはあるだろうが、何もかも嘘ということはないだろう。
何せ「あの頃の承太郎は、素直で可愛くて、甘えっこで、まるっきり天使のようじゃったよ。なのにあれがどうしてこうなってしまったのかのう」とわざとらしく目の前で泣き真似をするジョセフに、承太郎が良く眉間に青筋を刻んでいるのは良く見られる光景なのだ。
ともあれ、ジョセフの言っていたことが本当なら、優しく対応すれば、きっと大丈夫だろう。妹がいたポルナレフは、子供の扱いに比較的慣れてもいるし、子供に懐かれるタチだとの自負もある。
(よおし!)
ポルナレフは意識して、出来る限り優しい声を出した。

「お、おい承太郎…俺はポルナレフってんだ。おまえの爺さんのジョースターさんの友達で―――おおうっっっ!!!???」

承太郎に近づいた途端に、股間にすさまじい痛みを感じ、ポルナレフは悶絶うって地面を転がり回った。
あまりの傷みに涙が出た。
承太郎に股間を思いっきり蹴り上げられたのだ…と気づいたのは、先ほどまでぽやんとしていた承太郎が、ぞっとするような声音をポルナレフに上から投げかけてきたためだ。

「やい、てめえ…何が目的かは知らねえが、俺を誘拐しようたあ、良い度胸じゃねえか」

その声音にこもるあまりの怒気に、小さくなっても変わらないその威圧感に、ポルナレフはぞっとなった。
「ちっ、違っっ!!??」
「何寝とぼけていやがる。『お爺さんの友人です』とか、見え見えの誘い文句じゃねえか―――何が目的だ。それ如何によっちゃあ唯じゃあおかねえ」
「俺はホントに、ジョースターさんの!」
「あん?も一回そこを思いっきり踏みつけられねえと、わからねえようだな」
「ひいいいいいいっっっ!!勘弁してくださいっっっ!!!!」

ポルナレフはガキンチョ(推定6、7歳)に股間に足を乗せられ、脅されるこの状況に心底泣きたくなったが、神はポルナレフを見捨てはしなかった。


「承太郎っ!ポルナレフっっ!!」


聞き覚えのある声音と駆け付けてくる足音に、はっとなった承太郎が足をおろす。
驚きのあまりだろう、彼は自分の目の前で足を止めた祖父に対して、すかさず抱きついた。
「おじいちゃんっ!ふえ〜んっ!怖かったよおっっ!!」
「じょ、承太郎っ!おお、良し良し…おじいちゃんはここじゃ。大丈夫じゃぞ!!」
ジョセフは彼らしい切り替えの早さで、咄嗟に10年は若返った孫を抱きしめ、その涙を止めるために、顔にキスの雨を降らしたが。

「…ポルナレフどうしたんだ、アレッシーにやられたのか?」
「あ、いや…」

アブドゥルにそういって体を起こされたポルナレフは今の状況がわからず、唖然となっていた。
先ほどまで自分を脅していたガキンチョは、本当に今現在、ジョセフの腕の中で泣いている少年と同一人物なんだろうか?
(え?俺の見た夢?錯覚?…いや、でも確かに)
蹴られたらしい股間は未だにひりひりと痛んでいる。これだけでも、先ほどのあれが夢だったとは到底思えないのだが。
それでも、現在泣いている孫を必死に宥めているジョセフに対して、アンタの孫に股間を蹴られ、マフィアまがいの口調で脅されたのだとは今更言いにくい。

(…ま、良いか…承太郎も、突然知らない土地に一人でほおり出されて、不安だったんだろう。そう思えば可愛いもんじゃないか)

ポルナレフはそう考えることにした。
しかしそれこそが錯覚であった…と理解させられたのは、それからすぐ後のことだった。




「え、旅行?」
「そう、承太郎を脅かそうと思ってな…おじいちゃん、承太郎が眠ってる間に連れてきちゃったんだ。おじいちゃんと二人で旅行は嫌か?」
「ううん。でもあの人たちは?」
「あの人たちは、ガイドとボディガードの人たちだよ。この国は少々物騒でなあ…」

とりあえず承太郎が泣いたり、仲間たちを怖がって逃げ出したりしないようにと、ジョセフはかなり苦しいと思われる、口から出まかせの説明をした。
しかし10歳くらい若返った現在の承太郎には、それはさほど不審がられなかったようだ。
とりあえずホテルに部屋をとったジョセフたち一向は、承太郎におやつとジュースを与えておき、その脇でメンバーとこれからのことを話し合った。

「とりあえず、これからどうするかじゃが…」
「とにかくアレッシーを見つけて、早々に承太郎をもとに戻さないと―――承太郎がこのままじゃあ、戦力低下も著しいですし、ディオからの刺客が来た場合に(アレッシーも一応刺客なのだが)逃げ切れるかどうか」
「そうですね…でもアレッシーはどこに潜んでいるんだろう?以前襲われたのは、北側の路地だったってポルナレフ、言ってたよね?」
「ああ」
「ということは、今回襲われた場所とはまるっきり市場の反対側じゃな。しかしおそらく承太郎を狙って、周囲をうかがっておるとは思うんだが…今のところ、それらしい気配は感じないの」
「でも油断はできません」
「うむ、そうじゃな…だがとりあえず、今日の夕方乗るはずだった、列車の予約を変更して来ないと」
ジョセフはため息をつく。こういった国では、電話一本でキャンセルというわけにもいかぬのが、面倒だ。
かといってキャンセルすれば戻ってくる4人分の列車代金をそのままはした金と切り捨てるほど、一向の旅は楽なものではなかった。
無論、密にSPW財団と連絡を取り、出来る限り食料も金も、補充は受けてはいるのだが。
「お供しますよ。狙われてるのは承太郎でしょうが、単独行動は危ない」
「そうじゃな、アブドゥル。ではポルナレフと花京院、承太郎を少しの間、頼めるか?」
「はい」
「おう、任せとけ!」
「承太郎」
「なあに、おじいちゃん?」
ジョセフは素直に傍らの祖父を見上げた承太郎の頭を、優しく撫でた。
「おじいちゃん、ちょっと用事を済ませてこなきゃならないんだ…その間、この二人、花京院とポルナレフと一緒にいてくれるか?」
「…長くかかるの?」
「いいや、30分くらいで戻るよ」
「じゃあ良いよ。この人たちと待ってる」
「良い子じゃ」
ジョセフは承太郎のおでこにキスを落すと、「すぐに戻るからな」と手を振ってアブドゥルと共に出て行った。

二人の姿が消えると、いきなりポルナレフは吹き出し、机に突っ伏して、たまらないというようにそれをたたいた。
それを花京院が呆れた目で見降ろす。
「おいおい、ポルナレフ…それほど笑うことはないだろう?」
「だってよお…ジョースターさん、見るからに浮かれてんだもんなあ。あのじいさん、意外に可愛いところあんな」
「まあ承太郎は普段、ジョースターさんに対しては特に素直じゃないからね。気持ちはわかるよ」
きっとジョセフは、孫がいきなり小さくなったことにショックを受けてはいても、自分になつく素直で可愛い孫に戻ったことに、それなりに嬉しいことも確かなのだろう。
今の承太郎に接する彼の目尻は、普段の3割増しは下がってる。

「これでもとに戻ったときに記憶があったら、承太郎、憤死するな」
「まあ承太郎も意外にシャイだしねえ…でもどんな反応するか、確かに楽しみではあるけど。じゃあ僕も戻ったときに、記憶があることを祈ることにしようかな」
「ほお、そりゃ楽しみだ―――ところで、先ほどから”俺”をサカナに盛り上がっているようだが、そろそろ詳しい事情を説明してくれるとありがたいんだがなあ?」

「「……………え?」」

どっかで聞いたような口調と威圧感が突然会話に入り込み、恐る恐る…花京院とポルナレフが振り向いてみると、そこには悪魔のような笑みを浮かべたお子様が立っていた。
否、これを『お子様』と呼べるなら、世間のいっぱしの大人は、皆『赤ん坊』とさえ呼べるだろう。
先ほどの恐怖を突然思い出したポルナレフは勿論のこと、花京院も覚えのありまくるすさまじい威圧感に、身動きができなくなる。
そんな中、子供がゆっくりと口を開いた。

「じじいは旅行だとかなんとか、適当にごまかしてたがな―――たかがそんな理由でこんな危険な国に、それもこんな大所帯で来るわきゃねえだろ?それにじじいも俺の記憶より、少々くたびれて年くってるようだ。どうやらてめえらは、詳しいことを知ってるようだな。痛い目にあわされたくなかったら、とっとと吐いたほうが身のためだぜ?」

「…あ、あのね…承太郎、くん…」
先ほど実際に「痛い目」に合わされているポルナレフはともかく、花京院は比較的常識人だった。そのため、推定6、7歳の子供の生態を自身の常識と照らし合わせて、彼は承太郎の反応を「幼い子供ならではの虚勢」と判断したようだった。
しかし。

「それ以上無駄口叩くんなら、俺の”下僕”に口を閉じるまでぼこらせるぜ」
「え…下僕?」

二人は同時に承太郎を見て、そして果てしなく後悔した。
何故なら幼い承太郎の背後に、見覚えのありまくる承太郎の最強のスタンド、スタープラチナが浮かんでおり、その主の意思を示すかのように、ぼきぼきと拳を鳴らしていたからだ。
(ええええ―――っっっ!!??承太郎この年で、なんでスタンドつかえてるのっっ!!??)
(知らねえよ、そんなことっっっ!!!)
二人は現実逃避のためか、視線でひたすらに会話を応酬したが、それはこの場を支配する少年にはお気に召さないようだった。

「…これ以上待たせっと、口の奥に拳突っ込んで、ガタガタ言わせっぞ」
「「すみません、頼むから勘弁してください」」

逆らわないほうが良い―――そう判断した二人はすぐさま頭を地面に擦り付けて土下座をし、承太郎の望むままに、いささか荒唐無稽と思える今回の事情を暴露したのだった。


「…そうか、ババアがな」
「…そう、僕らが50日以内にディオを倒して戻らないと、ホリイさんの命が危ないんだ…」

花京院は腕を組んで椅子に座る子供の前に、地べたに正座させられたまま、かつてのように、母親を平然と「ババア」呼ばわりする様子に遠い目になっていた。
しかしそれを敢えてスルーした。
何故ならそれに抗議して、癇癪を起した子供(正確にいえばそのスタンド)にぼこられるのが、心底恐ろしかったのだ。
ちなみに事情を話す最中に、狙い澄ましたように承太郎の機嫌を損ねる失言をしたポルナレフは、現在承太郎にあらぬところを踏みつけられた末に、再起不能になって倒れている(笑)
花京院はガタガタ震えて、冷や汗を大量にかきながら、なんとか事情を全て話し終えた。
しかし一概には信じがたい荒唐無稽な一向の事情も、承太郎にはすとんと腑に落ちたようだった。
おそらく、ジョセフの今の様子や、現在の状況などを照らし合わせた結果、花京院の言葉に嘘はないと判断したのだろう。

「にしてもてめえらの話だと、本当の俺は17歳ってことだよな。てことはじじいはもう69か。無理しやがって」

承太郎はため息をついた。
その様子に、小さくても、恐ろしくても(笑)、やっぱり彼は承太郎なのだと花京院はすこしだけ安堵する。
承太郎は口は悪いし素直でもないが、その実影では、人一倍祖父であるジョセフの身の安全には気を配っていたことを、花京院は知っていた。

「…あ、あのぉ、逆にちょっと聞いても良いかな?」
「ああ、いいぜ。なんだ?」
「承太郎、キミは今…17のときの記憶はないんだよね?」
「ああ」
「じゃあ、今の年齢の記憶は?」
「ちゃんとあるぜ。ちなみに今の俺は7歳になったばかりだな」
「キミは7歳のときから、そんな口調でしゃべっていたのかい?」
「ああ、裏ではな」
「ジョースターさんやホリイさんはそのこと…」
「知らないと思うぜ。気取らせるようなヘマはしねえ」

それを聞いて、花京院は事情を理解した。
ジョセフは会えなかったわずか3年ほどの間に、承太郎がすっかりぐれて様変わりしたようなことを言っていたが、何のことはない。
彼はもともと猫をかぶっていて、それをその数年の間に、表に出すことにしただけなのだ。
それを敢えて口にしなかったのは、やはり自分を可愛がってくれたジョセフやホリイを、大切に思っていたからだろう。
それにしても7歳でこれが常態とは…承太郎は実は、子供のころから相当に知能指数も高かったのではないだろうか?
いずれにせよ、普通の「7歳」ではないことは確かだった。

「『裏では』って、なんでそんな面倒なことを?」
「そりゃ『孫』ってのは特別に可愛いものらしいからな―――その孫がガキの頃から変に頭が回ったり、スレてるとなりゃ、じじいが気の毒すぎんだろ。それに『嫁』に良い思い出を作ってやるのは、『旦那』の役目だからな」


「………………………………………………は?」


途中までは口は悪いが相変わらず家族思いな友人の言動に、ちょっとばかりほんわかなって、話を聞いていた花京院だったが。
『嫁』とか『旦那』とか。
この会話に不釣り合いな単語が出てきたことで、目が点になってしまった。
訊きたくはなかったが、この場合、訊かないわけにもいくまい。
「よ、『嫁』って…誰、が…?」
「勿論、じじいに決まってんだろ」
当然という口調で返され、花京院は咄嗟に、言葉が続けられなかった。

「ばっか!承太郎おまえ、実の祖父とは結婚できな―――ひぎいいいっっっ!!!!」

懲りずに口をはさんだポルナレフは、再び同じ場所を踏みつけられ、悶絶うって、床を転がりまくった。
花京院はその様子に、蒼白になる。
もしかしたらポルナレフは、もう「男」としての復帰は望めないかもしれない。
承太郎はそれを見下ろし、馬鹿にしたような口調でいった。

「あ?赤の他人の決めた法律なんて、何の枷にも効力にもならないだろうが―――結婚なんて当人同士が認めれば、それで十分だ」

いや、だからこそ「無理だ」といったんですが…というポルナレフの心の声が聞こえたような気がしたが、花京院は沈黙を守った。
今の承太郎は操縦桿のない、戦車に等しい。何せ彼の後ろでは、常に最終兵器のスタープラチナが、恐ろしい形相で目を光らせているのだから(今の承太郎の感情が影響しているのだろうか?)
逆鱗に触れそうな部分は触らないことが、一番利口なのである。
それでも訊かずにはいられなくて、花京院はおそるおそる口を開いた。
「でも、あの…ジョースターさんにはスージーQさんっていう、奥さんがいるけど?」
「俺はそんな些末なことにこだわるほど、了見の狭い男じゃないぜ」
現在進行形の妻を、あっさりと「なんでもないこと」扱いした承太郎は、7歳児だとは思えない魅力的な笑みを浮かべて言った。

「本当は今でも、じじいを即効でオトして、俺にメロメロにさせる自信はあるんだ―――けど今の俺じゃあ、じじいを自分のもんで可愛がってやるのはムリだからな。初めてはやっぱ道具なんかじゃなく、俺のもんでひいひい鳴かせてやりてえし?まああと10年も経ちゃ、俺は誰もが振り返るいい男になってるに決まってるからな。その時まではゆっくり待ってやるさ」


((なんなのこの子―――怖いっっっ!!!!))


不埒すぎる台詞と男前発言を同時に吐いた承太郎(若干7歳)に、花京院とポルナレフは、思わずすがるように両手を重ね合わせて、心の中で同じ言葉を叫んだ。
子供ゆえの無邪気な思い込み…というには、承太郎の目はあまりに本気だったし、承太郎の普段の言動に、思い当たる節があり過ぎたからだ。
(そういえば承太郎って、思い返せば結構ジジコンだよな。ジョースターさんに何かあると、過剰反応するし)
(ジョースターさん、貴方はホリイさんを助けたら、すぐさま承太郎と縁を切ったほうが良い―――さもないと絶対に襲われます!!!)
そんなことを心中で叫んでいる二人を、知ってか知らずか。
救いを求めて互いにすがりついてる二人組を、承太郎は立ち上がってゆっくりと見下ろした後(身長は低いのになんでこんなに威圧感があるのだ(TT))こんなことを言った。


「まあ、てめえらが今、何を考えてるかは大体わかるがな―――ひとつだけ忠告しておくぜ?もしじじいに余計なことを言いやがったら、てめえらに『いたずらされた』ってじじいの目の前で泣きわめくからな」


「「っっっ!!!!」」

花京院とポルナレフは、手を握り合ったまま、硬直した。
わずか7歳の可愛くて無邪気な孫(ホントはそれだけじゃないけど)に、目の前で「いたずらされた」と涙ながらに訴えられて、それに騙されない祖父などいないだろう。
そんなことをされては、ポルナレフと花京院の信用は、チーム内で失墜する。
それどころか、今後承太郎がもとに戻ったとしても、一緒に旅を続けることはもはや不可能だろう。
茫然自失となった二人を満足げに見下ろした承太郎は、不意にスタープラチナを消し、笑顔を浮かべた。
先ほどの悪魔のような恐ろしげなものではなく、それはまさしくジョセフの言うところの「天使」の笑みだった。

「おじいちゃんお帰りっっ!!!」
「おお、承太郎、ただいま」

最愛の祖父の帰りに目ざとく気づいた承太郎は、天使そのもののような笑顔でジョセフに抱きついた。それを、ジョセフはもはや蕩けているとしか思えない笑顔で受け止める。
その様子を、しかしポルナレフと花京院はもはや先ほどのように笑えなかった。
何故ならジョセフの腰に抱きついた承太郎が、「余計なことを言うんじゃねえ!」と一瞬、悪魔の形相でこちらを振り向いたからだ。

「わしがおらん間、いい子にしてたか?」
「うん。お兄ちゃんたちとお話ししてた」
「ふうん、どんな話をしたんだい?」
「おじいちゃんのおはなしー!」
「おやおや、わしがおらん間に、悪口を言っとったんか?」
「そんなんじゃないもん!」

からかうようなジョセフに、ぷうと膨れる承太郎の様子は大層可愛らしいが。「悪口」のほうがまだはるかにマシだったろうと、二人は思っていた。
よりによって、実の祖父を将来的に「犯す」話をしていたなんて、例え脅されていなくとも、当人にはいえまい。


列車の予約は明後日に変更できたため、一行はとりあえず、今日は夕飯を食べて休んで、明日早くから行動することにした。今の時期は日が暮れるのは早いし、今からアレッシーを探して人がはけた薄暗い通りを歩くのは、決して得策ではない。
今回の部屋割りは、承太郎、ジョセフ、花京院と、アブドゥル、ポルナレフとなった。
幼い承太郎を祖父から引き離すのは、不安で心細いだろうし、あまりに可哀想だ…というのがその部屋割りの理由だったが、花京院はそれが決して真実ではないことをすでに知っていた。
そして今、花京院はたった今、シャワー室に消えた二人を見送って、まんじりともしない時を過ごしている。
まさかここでジョセフを襲ったりはしないだろうが―――「おじいちゃん、俺も一緒に入るぅ!!」と子供の我が儘を装い、ジョセフのお風呂についていった子供が、猛禽類のような目をして小さく舌なめずりしていたのを、花京院は見てしまったのだ。

『おじいちゃんのお胸、おっきい!』
『こ、これこれ、承太郎…変なところを触るでない…ひやっっ!』
『おじいちゃん、俺が身体洗ってあげるね』
『そ、それはありがたいがの…い、いや…承太郎、ちょっ、そこはっ!…ふあっ…』
『おじいちゃん、気持ち良い?』

くすくすという笑い声に合わせて、何やら不穏とも、微笑ましいとも、どちらともとれる会話が、風呂場から響いてくる。
しかし子供側には、すでに無邪気さなど欠片もないことを、花京院は知っていた。
(ジョースターさん、ジョースターさん、ジョースターさああああんっっっ!!!)
今は心の友(いつそうなった(笑))のポルナレフがいないため、花京院は一人、両手を合わせて、神だかなんだか良くわからないものに、ジョセフの(貞操の)無事を祈りまくっていた。
それは一応聞き届けられることになるが、子供の無邪気さをよそおった不埒ないたずらを、必死で耐えたらしいジョセフは、シャワー室を出るなり、ベッドにぐったりと横になってしまった。
しかしその横に、当たり前のようにもぐりこむ子供が、「しばらく消えろ」と言うようにしっしと手を振ったことから、花京院は仕方なく「ちょっと売店にでも…」と部屋を出た。

ここで自分が席をはずせば、ジョセフがさらに無邪気さをよそった承太郎に不埒な真似をされることはもはや間違いなかったが。
逆らうにはあまりに子供の承太郎は恐ろしかった。
人生経験が浅い割に、頭だけは回る子供は、欲しいもののためなら、他を切り捨てることを躊躇わない。
もし抗えば、今の承太郎なら花京院を躊躇なく、「つぶす」だろう。
救いがあるとすれば、承太郎が「10年くらいは待つ」と言っていたことだろうか。
もっともそれも、承太郎の情熱が勝れば、どうなるかはわからないのだが。

「いずれにせよ、早く戻ってほしいよ…」

花京院はため息をつき、頭を抱えた。
子供の承太郎は、色々な意味で爆弾そのものだ。
ジョセフのためにも、自分の精神的安寧のためにも、早くもとに戻すに限る。
翌日執念深く探索した花京院とポルナレフによって、早々に見つけられたアレッシーが、必要以上にぼこぼこにされたのは言うまでもない。
  
  
       

おわり


まあそもそもこの話を思いついた切っ掛けは、ジョセフが承太郎と3年ぐらいあわなかったとしても、承太郎の突然の変貌はちょっとありえなくない?
戦闘能力はスタンドのせい・・・と理由づけができるにしても、年齢離れした落ち着きとか、頭脳とか。
ありゃもう別人になっちゃったよって域だろう―――「反抗期」だけじゃあ理由つかねえだろ、と思ったわけで。
となれば、ジョセフといたころの承太郎も、実は頭脳明晰だったり、年齢ばなれしたクールな性格だったりしたに違いない。
そんなわけでこの承太郎が生まれました(笑)

多分今後も、うちのガキンチョ承太郎は、このスレ設定でいくかと。
おじいちゃん、大変だ〜(笑)

H26..9.4(ピクシブより転載)

inserted by FC2 system