1.

 

 

その日、承太郎は花京院に招かれ、彼の家に遊びに来ていた。
学生らしくない体躯と、戦闘力、精神力を誇る承太郎だが、実際当人はまだ高校生であり、友人の花京院と一緒なら、ゲームなどもそれなりにしないわけじゃない。
けれどそれは格闘ものに限ったことだ。
しかしその日、花京院が「やってみない?」と出してきたのは「恋愛シュミレーションゲーム」だった。

「花京院、てめえ…」
「ああ、待って待って!スタープラチナ(星の白金)出す前に、これを見てよ」
そういって花京院がテレビ画面に立ち上げたゲームのオープニングムービーに、承太郎は興味無さげに目をやったが。

「っっっっ!!!!!????」

そこに映った映像に承太郎は目を剥き、思わずテレビに詰め寄り、食い入るように「それ」を見つめてしまった。
「か、花京院…これは?」
「承太郎、さすがだねえ」
花京院は呆れているのか、感心しているのかわからない、微妙な笑みを浮かべていった。
「そう、これはジョースターさんが趣味でゲーム会社と共同開発した、恋愛シュミレーションゲームなんだ。サンプルを作ったから、試しにやって意見を聞かせてくれと言われて」
「中心にいる学生服、じじいだな…17歳くらいか」
「ホントにすごいねえ、キミって。年齢までわかっちゃうんだ」
花京院は今度こそ、呆れた笑みを見せたが、そんな友人に承太郎は誇らしげに言った。
「当然だ!じじいの成長は、生まれたときから現在まで、余すことなくすべてを俺の心のメモリーに焼きつけているからな」
「…その心は?」
「ばあさんに俺のアルバムと、じじいのアルバムをトレードしてもらった」
「大丈夫なの、それってっ!?」
「問題ない。ばあさんには了承済みだ」
でも多分、ジョセフ自身には許可を得てないのだろうな…と花京院は察したが、藪をつついて蛇を出すことはないとそのまま沈黙した。
孫の成長記録と秤にかけられ、妻に自分のアルバムを差し出されたことを知ったら、きっとジョセフもショックに違いない。
花京院は気を取り直して言った。

「このゲームは自分が主役の女の子になり、出てくる男の子たちをオトして告白させるゲームなんだ…もちろん、ジョースターさんのモデルのJОJОもね。やってみる?」
「やる!」
「うん、でもJОJОは格闘ものでいう『ラスボス』だから、一番オトすのが難しいよ…僕もまだ攻略できてない」

そんな花京院の台詞を聞いているのかいないのか、承太郎はすでにコントローラーを持ち、やる気満々だ。
花京院は苦笑し、基本的な操作や、初期設定の仕方を、説明しながら承太郎にさせていった。

   

 

**********

  

  

始まりは新学期のとある高校だ。
転校してきた主人公が道に迷っていると、かなりな美形の金髪の優男(外国人?)が近づいてきて、いきなり声をかけてくる。

『やあ、シニョリーナ。何かお困りかな?俺で良かったら、力になるよ』

選択肢は「ありがとう、道に迷ってしまって」と、「いえ、大丈夫です。おかまいなく」の二つだが。
「この男、なんか気に入らねえ…」
「ああ、ダメ!承太郎っっ!!」
すかさず後者を選択しようとした承太郎を、花京院が止めた。何度かプレイした彼は、すでに知っていたのだ。
「ここでこちらを選んだら、JОJОは一生オトせなくなっちゃうよ!」
「はあ?なんで」
「JОJОはこの美形―――シーザーっていうんだけど、彼と『親友』って設定なんだ。だからここでシーザーとコネを作ることでJОJОとも親しくなるルートに持っていける」
「親友だあ?」
気に入らなげに眉をあげた承太郎に、花京院は「あくまでゲームだから」と苦笑する。
おじいちゃん大好き―――を通り越して、最近ちょっと熱狂的マニアかストーカーのようになってしまっている承太郎は、ゲームの中のこととはいえ、祖父に自分以上に親しい男がいることが気に入らないらしい。
(…ジョースターさんも大変だな)
花京院はため息をつきつつ、「ともかくそっちを選んで」と承太郎を促した。

その後は最初のほうらしく、承太郎や花京院がモデルらしい男を含めて、何人か同級生の男キャラが出てきたり(ちなみに承太郎はやはり不良、花京院はチェリーの栽培が趣味になっていた(笑))、主人公の親友だという天真爛漫な少女(承太郎曰く「ウザい女」でも多分モデルはホリイだろう)が出てきたり、部活に入ったり(ちなみに花京院のアドバイスで漫研を選んだ。ジョセフの趣味を考慮にいれての選択)と、学園ものらしく色々あったが。
概ねゲーム進行は順調だった。
ある日、シーザーから主人公に電話がかかってくる。

『やあ、シニョリーナ、元気にしていたかい?実はキミがみたいといっていた映画のチケットが手にはいったんだ。良ければ日曜に一緒にいかないかい?』

「………………」
「承太郎、気に入らないのはわかるけど、ここはJОJОに近づくためにぐっと我慢だ」
「わかってるよ」
了承して、日曜日に一緒に出かけると、道の途中でやっと件のJОJОが登場した。若いジョセフをそのままモデルにしているだけあって、衣装も結構おしゃれで華やかだ。
(じじい、可愛いぜ)なんて思っているのか、目に見えてテンションの上がった承太郎(というよりこの場合、その連れ)に、画面の中のJОJОが言う。

『よお、シーザー、可愛い彼女を連れて。デートか?』

「…そんなわけねえだろう。可愛い嫉妬をするんじゃねえ」
「承太郎、色々と落ち着いて。ここは慎重に選択しなきゃ」
承太郎のたわごとに慣れている花京院は聞き流し、ゲーム画面に向き直った。

 

恋愛シュミレーションに詳しい花京院は、こういう何気ない選択肢が、のちにかなりの影響を及ぼすことを知っていた。出た選択肢は「そんなんじゃないです!」と激高するパターンと、「…そんな、デートだなんて//」と照れるのの2択だ。
「うーん、JОJОをオトすことを考えれば、前者の選択肢のほうがポイント高いかなあ…後ろのほうが『可愛い』と好感を持ってもらえる可能性もあるけど。どっちを選ぶ?」
「前者だ。じじいに誤解されるなんて、冗談じゃねえ」
「あっそ」
花京院は呆れたが、お試し版ということもあり攻略本もないこのゲームは、ポイントの振り分け基準が良くわからない。
そこで、承太郎の判断に任せると、JОJОの表情が驚くものに変わった。

『え、そうなの?』
『そうです、デートなんかじゃないです!!』
『そうだぜJОJО、俺はただ、たまたま共通してみたい映画があったから、彼女を誘っただけだ!!//』
『ふうん、たまたまねえ…』

意味深な顔で笑うJОJОは、去り際に主役に内緒話でこうささやいた。
『アイツ、ホントはこういう映画苦手なんだ…でもキミとはどうしても一緒に見たかったみたいだ』

「じじい、妙な誤解すんじゃねえ!―――こんな優男と映画なんて、頼まれたって嫌に決まってるだろ!!!!」
「じょ、承太郎落ち着いてっっっ!!!!」

ミシミシとコントローラーを鳴らし始めた承太郎に、花京院が焦る。何せ、コントローラーひとつといえど、結構高いのだ。
「とにかく落ち着いてよ。今の選択肢でポイントは低いかもしれないけど、JОJОの好感度が下がることは多分ないだろうから、ここでは良しとしておこう」
「だがじじいに誤解されてるのは気に入らない」
「まだ誤解というほどの段階じゃないよ。ここからまだまだ盛り返せる」

花京院の言った通り、その後主人公はシーザーの誘いで生徒会に入ることになり(JОJОが会長だった)、夏の生徒会合宿、学祭などを通して、徐々にJОJОとの距離が近づいて行った。
その間、JОJОと肩を組むシーザーに承太郎が激高したり、JОJОの水着姿での登場画面で10分ほど停止して見とれていたり、終いに「ゲームに勝ったらこの水着脱がせるとか出来ねえのか」「脱衣麻雀じゃないんだよ」なんて会話があったりして。
ともあれ、花京院が二人分の夕食を作って持ってきたときには、一年目のクリスマスイベントまで来ていた。

「じじいのクリスマスプレゼントは何が良いんだろうな?」
「うーん、選択肢は何が出てる?」
「『漫画本』『手編みのマフラー』『株の入門書』だな」
「なんかジョースターさんらしいチョイスだなあ…普通に考えれば『手編みのマフラー』かなあ?」
「だが待て。じじいはかなりの漫画好きだ」
「でも女の子からのプレゼントという設定だからなあ…恋愛イベントに結びつく可能性は『手編みのマフラー』のほうが高そうだけど。どうする?」
「…どうせなら本人が喜ぶもんをあげたいからな。漫画本にするぜ」

漫画本を購入した主人公は、それを渡してJОJОに大層喜ばれた。

『ありがとう、すっごく、すっごく嬉しい!!//』

頬を紅潮させ、子供のような笑みを浮かべるJОJОは、大層可愛らしく。
それを見て承太郎は言った。

「…今年のじじいのクリスマスプレゼントは、絶対漫画本にするぜ」
「うん、でもキミがジョースターさんが持っていないコミックを手に入れるのは、難しいんじゃないかなあ…」

   

 

つづく


承太郎にジョセフモデルのゲームをやらせたいというだけで書き始めたこの話。
元になっているのは、実はときめも初代とときめもガールズだったりします。
この二つしかやったことないのよ。

H26.10.17(ピクシブより移動)

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