3.

   

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、
タカタカ、タカタカ、タカタカ、タカタカ、
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、
タカタカ、タカタカ、タカタカ、タカタカ、


屈強な男4人が、肩で風を切って歩くのを、ちょこちょこと速足の、ピンクのワンピースを着た天使が追いかけていく。
その微笑ましい光景を見かけた、周囲の者たちは一様に微笑む。
しかしよもやその女の子の正体が69歳の老人(しかも性別は男)であり、そんな彼(現在は彼女だが(笑))をこっそりと、男たちの一人が度々振り返り、その度密かにこぶしを握り締めていることを、彼らは知らなかった。
そんな怪しげな言動を取っている長身の男―――幼女の正体であるところの、ジョセフ・ジョースターの孫、空条承太郎は、心の中で、歩き始めてから何度目かのつぶやきを、漏らしていた。

(ちっ、じじい、ちょこちょこ歩く様子がたまんなく可愛いぜ…抱き上げてえ!)

それをしても、今のジョセフ相手なら、問題はないはずだった。
今のジョセフと承太郎たちとでは、歩幅が違いすぎる―――だからその負担を軽減してやるために、抱き上げるというのは決して不自然な申し出ではないはずだ。
しかし如何せん、承太郎がジョセフに抱く祖父へ抱くには似つかわしくない感情が、その簡単な申し出を、ひどく困難なものとしていた。
不自然に思われはしないか―――自分の下心に気づかれはしないか。
恋する男の悩みはなかなか深いのだ。
けれどそうこうしているうちに、肝心のジョセフが、道行く「他人」にぶつかってしまって。

「ひゃっ!」
「おおっとお嬢ちゃん、よく前を見て歩かなくちゃダメだぜ?…俺さまの足が骨折しちゃったら、どうしてくれるんだい?」

ひっひっと下種びた笑いを立てた男が、尻餅をついて白い膝小僧がむき出しになったジョセフの前に、立ちふさがる。
どうやら男は幼女趣味もある変態らしく、明らかにその笑みには「色欲」があった。
その手が明確な下心をもって白い膝に伸びようとした瞬間、男はジョセフ―――を通りこして、顔から数メートル離れた地面にダイブした。
その顔は勢いのままに、地面を木の皮か何かのように、数メートルえぐることとなった。


「ぐおおおおおおっっ!!だ、誰だああ!!??―――ひいいっっ!!!???」


「おおっと…すまねえな。デカい図体のてめえが道端でぼおっと立ち止まってるから、思わず壁かと思って怖そうとしちまったぜ」
あまりに無体な相手の行動に激怒し反射的に顔をあげると、そこには「鬼」が立っていた。

帽子の下から恐ろしく殺気に目を光らせたその長身の男は、「壁の代わりにてめえを粉砕すんぞ、ゴラア!」と言わんばかりにボキボキと拳を鳴らしている。
その上。
「承太郎が謝ることはないよ。こんな世間に迷惑な体系をしているくせに、道の往来をのうのうと歩いて、その上、立ち止まって、あんな可愛いジョセフさんの進路をふさぐなんて、身の程知らずなことをする彼が一番いけないんだから。とりあえず、足の二本もいっとく?」
なんてにっこり笑いながら、ひどく物騒なことを口にした連れらしき二人目の「鬼」が、男の膝に足をのせて、ギリギリと体重をかけてくる(ちなみにその額には青筋が浮きまくってる)


((神様あああああっっ―――!!!)


男は自分がいつの間にか、喧嘩を売ってはならない男たちに喧嘩を売ってしまったらしいことに気づき、思わず人外の存在に助けを求めてはみたが。
勿論、承太郎と花京院の逆鱗に触れた男には、後の祭りだった。
「ぎゃあああああああっっ!!!」
断末魔のような悲鳴が響き、周囲の人々は思わず顔をそむける。テレビ番組なら「しばらくお待ちください」とテロップが出て、しばらく放映禁止となっただろう。
しかしその合間を縫って、唖然と座り込んでいたジョセフを、背後からひょいと抱き上げる男がいた。
それは、一行では比較的常識人―――でも結構鈍感で空気読めない属性―――な、ポルナレフだった。
その証拠に、彼がジョセフを抱き上げた途端に、アヴドゥルの顔に恐怖と緊張が走った。

アヴドゥルは知っていたのだ―――すかした顔をしながらも、可愛らしい姿になった祖父を、内心「抱き上げたい」という願望にうずうずしていた、めんどくさい男←(笑)の本心に。
だからこそ、誰より気遣いの出来る男ながら、大変そうに歩くジョセフを見ないフリをしていたという側面もある。
何せ、祖父が絡むとこの承太郎という男は、たまらなく「めんどくさい」のだ。
しかしそんなこととは露知らぬある意味幸せなポルナレフは、「な、何をするんじゃ!//」と微かに羞恥に顔を染めたジョセフを見て、へへっと得意げに笑った。

「危ねえから、俺がこうして運んでやるよ」
「ば、馬鹿、いらん世話じゃっ!降ろせっっっ!!//」
「んなこと言ってぇ…そのちっこい足じゃあ、俺たちについてくんのも大変だろ?遠慮すんなって―――ひっっ!!!」

勿論、ポルナレフは「100%の善意から」その申し出をした。彼には妹がいたから、それをちょこっと思い出して郷愁に浸ったなんて側面も、実はちょびっとはあるだろう。
けれどそれらは、ジョセフを「抱き上げたい」という願望を、内心ずっと持て余し悶々としていた承太郎を「抜け駆けした」も同然の行為だった。
そのため、先ほどの男と同等―――いや、それ以上に殺気のこもった目を、仲間である承太郎からむけられたポルナレフは、あまりのことに蒼白になって硬直し、思わずジョセフを抱き上げた手を緩めてしまったのだ。


「うわああっっ!!!」
「危なああああいっっ!!!!」


ポルナレフの手から、ポロリと落ちたジョセフの身体を、咄嗟にスライディングした花京院が、地面にぶつかる前になんとかキャッチする。
ずずず…と地面をすった制服が音を立てたが、その甲斐あって、ジョセフはなんとか花京院の背中の上に落ちた。
「す、すまん!…花京院」
「い、いえ、無事で良かったです」
慌てて背中から降りて、涙目で自分を見下ろすジョセフに、花京院は地面に倒れた姿勢のまま、にっこりと笑い返す。
余談だが、その顔の表面には「萌え」と書かれていた(笑)
その後ろでは。

「ポルナレフ…てめえ、あんな可愛いじじいを落そうとするとは、どういう料簡だ。覚悟はできてるだろうな」
「ひいいいいいいいっっっ!!!」

なんて哀れとしか言いようのないやりとりがあったのは、当然の展開だった。
そしてアヴドゥルがさり気に合掌したのも。



で、結局。


「ちっ、危なっかしくて見ちゃいらんねえな…しょうがねえ。俺がしばらく運んでやるから、感謝しろよじじい」

実のところ、他の人間がジョセフを抱き上げるなんて許せないくせに、そんなことを言うちっとも素直でない恋する男は。
しかしその言葉とは裏腹に、大切で仕方がない祖父の今は小さな体を慎重に抱き上げ、自分の肩に乗せた。
けれどその内心を知らぬ祖父は、むううと拗ねたように首元に回した手を、腹いせのように締め付けてくる。
その手が、思いのほか細く、柔らかくて。
承太郎は思わず、口の端が吊り上るのを、必死で押さえなければならなかった。

そんな二人の様子を見て、アヴドゥルとポルナレフが大きくため息をついたのは言うまでもない。
(※花京院は楽しげに傍観)

 

おわり


ジョセフが幼児化したら可愛いに違いないというだけで書いた話(笑)

H27.6.1(ピクシブより転載)

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