2.

   

前々からキュートな人だなあとは思っていた。
それは何も容姿が殊更に愛らしいとか、外観的なことを言っているわけではない。
ただ言動が少々年齢にそぐわず子供っぽく、その表情が感情によってコロコロと姿を変えて。
その様子は”可愛い”というよりは、”微笑ましい”という表現が、一番ぴったりだったと思う。
けれどまさか―――その外見年齢と性別が変わっただけで、ここまで違って見えるとは思わなかった。



*****



「…でな、こーんなでっかい影がわしの足元にいつの間にかあって、目がぴかあって光ってな。そんで気づいたら、こんな姿に―――って、どした、おまえら?」


どうしたも、こうしたもあるか!と承太郎は言いたかった。
多分、一緒にいる花京院も同感だろう。
つい30分ほど前から外観年齢3、4歳の幼女になってしまったジョセフが、まだ稚いと言える声で、そのちっちゃな手をいっぱいに広げ、自分に起きた出来事を説明している。
集中して聞かねば…と思うのに、「こーんな」と広げるちっちゃな手が可愛い。
舌ったらずのしゃべり方が可愛い。
一生懸命に説明する様子が可愛い。
だぶだぶの承太郎の制服に埋もれてる様子が可愛い。
可愛すぎて、見ているだけで脳が蕩けてしまいそうだ。

(…お、落ち着け…これはじじいなんだ!)

承太郎は己にそう言い聞かせてみるが、もともとジョセフに対して肉親の情愛以上のものを抱いている承太郎にとっては、ジョセフが例え69歳の老人だろうと、やっぱり何をしても、何を言っても「可愛い」のだ。
それが外見年齢と性別が変わって、パワーアップされたに過ぎない。
つまり承太郎の自己暗示は全くの無意味だった。
承太郎の懊悩に気づいてか、花京院がフォローを入れるように話を進める。

「…つ、つまりその影はスタンドで、ジョースターさんはそのせいでこんな小っちゃい女の子になってしまったと」
「正解じゃ!」


((ぐはっっ!!))


二人は同時に腰砕けになりそうになり、必死に踏みとどまった。
老人の喋り方を今のジョセフがすると、そのギャップが逆に凶悪に可愛かった。というか、もはや今のジョセフは何をしても可愛いのだ。
「正解じゃ」と腰に手をあて、指をさしたポーズすら可愛い。
これはあれだ。
愛らしい子猫の仕草を見ると、無条件に腰砕けになるのに良く似ている。
それほどにジョセフは愛らしい子供だった。

これでは自分たちはもはや戦力にならない(笑)
ともかく早くジョセフを元に戻さねば…と花京院はなんとか必死で話を続けた。
「そ、それで、そのスタンド使いの外見とか、特徴とかわかります?」
「おう、わかるぞ。ええっと…」
そういってジョセフは紙を取り出し、カキカキとスタンド使いらしい男の顔を描きだした。その様子はまるっきり、幼稚園児のお絵かきだ。
やがて「こんなんじゃ!」といって二人の前にバーンとさらされた絵は、到底この世の生き物とは思えない造形をしていた。
(…えーっと未知との遭遇?グレイ?)
そんなふうに花京院が思ってしまうくらいに、その絵ははっきり言えばド下手で。
スタンド使いの特徴など、まったくもってわからなかった。
しかし承太郎と花京院は顔を見合わせ、思わず言った。


「―――な、なるほど…こういう男か。なかなかうまく書けてるじゃねえか、じじい」
「ホント、男の特徴を良くとらえてます」
「そうか?」


嬉しそうににぱあと笑うジョセフに、二人はまた足腰が崩れそうになるのを、必死に耐えていた。
やばい、この生き物は凶悪に可愛すぎる。
ド下手な絵を得意げに見せる様子が、逆に一段と可愛く見えるなんて、ヤバいを通りこして詐欺だろう(笑)
本当のところ、ジョセフの言動は老人だった頃から、ほとんど変わっていないのだが。
それが外見が変わっただけで、ここまで可愛らしく見えるとは。

(じじい(ジョースターさん)―――恐ろしい奴(人だ))

ともかく、ジョセフの似顔絵ではさっぱり特徴がわからないスタンド使いを一刻も早く見つけねばと、承太郎と花京院は思った。




「おう、今帰ったぜえ」


ちょうどそのとき、ポルナレフとアヴドゥルが戻ってきた。
彼らは承太郎たちがジョセフの事情聴取をする間、スタンド使いについての聞き込みと、ジョセフがとりあえず外でも行動できるようにと、子供服を買いに行っていたのだ。
それというのも、承太郎がジョセフに着せた制服が重すぎて、今の幼い姿のジョセフには不評であったためだったが。
ちなみに他の面々が服を貸すのは、承太郎のひと睨みで阻止され済みだった(笑)

「ほおら、ジョースターさん、買ってきたぜえ」

そういってポルナレフはジョセフの前に洋服をびらっと広げたが。
その瞬間、ジョセフは硬直した。
どう見てもそれは、ふわふわのレースが幾重にも巻かれた、ピンク色のワンピースだった。しかも後ろにはこれ見よがしに、天使の羽…らしきものがついている。
それを見て、花京院は後ろでビッと親指を立てていた。
承太郎は無反応だったが、実はこの衣装を選んだのは承太郎だった。
彼はスタプラをポルナレフの買い物に同伴させ、その場で今のジョセフに似合いそうな衣装を見立てたのだ。
そこには「惚れた相手に他の人間が見立てた衣装など着せたくない」という、誠いじらしい(?)承太郎の恋心があったりもするのだが。
如何せん、選んだ衣装が彼の別方面の欲望をダダ漏れにさせていた。

「な、な、な、なんじゃこれっっ!!」
「何って子供服♪」

ようやく我を取り戻したらしいジョセフに、ポルナレフがにやにやして返す。完全に面白がっているらしい様子に、アヴドゥルがため息をつく。
差し詰めその内心は「やっぱりポルナレフに任すんじゃなかった。何かやると思ってたんだ」というところか。
しかし何かと問題を起こしやすいポルナレフに、聞き込みも到底任せられないというのが、アヴドゥルの口には出さない本音だった。
まあもっとも今回は、承太郎が率先して衣装を選び、ポルナレフはあくまで購入してきただけであったから、それは濡れ衣というものだったが。

「こ、こんなもの着れるか!//」

真っ赤になったジョセフがそうわめきたてるが、その様子すらもキャンキャン鳴くチワワか何かのように見えてしまって、一行は内心、こんな顔→ホント(*´Д`*)カワイイナーになってしまう(笑)
しかしそれを押し隠し、承太郎はいつもの調子で言った。

「じじいうるせえ…ぎゃあぎゃあ喚くな―――着替えをもう一度買いに行ってる暇なんかねえんだよ。我が儘言ってねえで、黙ってそれを着ろ」

言ってることはもっともだが、その衣装を選んだのが実は承太郎であるという事実が、その説得力を皆無とさせていた。
しかしジョセフは意外に今の自分の外観を気にしていたのか、それともそのふわふわのワンピースに相当に抵抗があったのか。
いきなり涙目でキッっと承太郎を睨むと、こう叫んだ。


「承太郎なんて、大っ嫌いじゃあああああああ!!!!」


「ぐはあああっっっっ!!!!」
「じょ、承太郎おおおおおお!!!!」

その瞬間、承太郎が血へどを吐いて倒れかけたのを、慌てて花京院が助け起こす。
実はジョセフのこの台詞は、旅の間中、意外に良く聞くものだ。定番といって良い。
承太郎はジョセフに対して全然素直じゃないし、肉親以上の感情を抱いているからこそ、ついつい意地悪をしてしまうような子供っぽいところもあったのだ。
しかしその「大っ嫌い」という台詞は、今の状態で言われると、老人だったときの数倍の破壊力があったようだった。
承太郎はなんとか自分で身体を支えたが、完全にライフゲージは0状態で、燃え尽きた後の矢吹ジョーのような状態だった。
自業自得とはいえ、このままにしておくわけにもいかない。
花京院は何度か咳払いをすると、出来るだけ柔らかい表情をして、ジョセフに言った。

「ジョースターさん…気持ちはわかりますが、今の貴方は可愛らしい女の子なんですよ?ボーイッシュな格好をしていれば、ディオの刺客や周囲の目を必要以上に引いてしまいます」

それを聞いて、ジョセフは「う。」とつまる。花京院の指摘は確かに正しかったからだ。
もっとも今の可愛らしいジョセフがこんな衣装を着て通りを歩けば、別の意味で視線を集めることは、もはや間違いなかったが。
花京院は敢えて、それを口にはしなかった。

「…だ、だが…」
「それにこの衣装は『貴方に』と承太郎が見立てたものなんです―――ね、ジョースターさんだって、承太郎が可愛いから、似合いそうな服を選んでプレゼントしたこと、あるでしょう?承太郎だって同じなんですよ。貴方が大好きだから、今の可愛い貴方を着飾りたいんです」
「う〜」
それを聞いて、孫バカなジョセフは少しばかり心が動いたようだった。
花京院はもう一押しと、口の端を知らず吊り上げる。
「…や、でもなあ…わし、本当はもうすぐ70だし」
「戻るまで少しの間だけです。ね?可愛い孫のお願いを、聞いてあげてくれませんか?」


「〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!/////」


立て板に水式に言葉を重ね、ジョセフの逃げ道を奪っていく花京院を、ポルナレフとアヴドゥルは「さすがだなあ…」なんて眺めていた。
承太郎は花京院の自らの「代弁」に微かに顔を赤らめていたが、さすがに先ほどの「大っ嫌い」攻撃が効いているのか、今回ばかりは花京院に任せるつもりらしかった。



そして数分後。
ジョセフは見事に可愛らしい女の子から、愛くるしい天使へとその姿を変えていた。
どうやら相当に恥かしい様子で、真っ赤な顔で膝元で小さな拳を握り、ちっとも顔をあげようとしなかったが。
その様子がさらに愛らしく、一行がさらに和んだ(その中で二名は腰砕け)になったのは言うまでもない。

誰か「はよ、スタンド使いを探しに行け」といってやってください(笑)

 

  おわり


ジョセフが幼児化したら可愛いに違いないというだけで書いた話(笑)

H27.6.1(ピクシブより転載)

inserted by FC2 system