1.

  

 

「まったく…じじいの奴、どこに行ったんだ」
承太郎はため息をつき、辺りを見回す。
その口調は落ち着きはらっており、少しの動揺もその表情にはうかがわせなかったが、実際のところ、承太郎は焦っていた。


それはまずい状況だった。
スタクル一行が食糧調達のためにその市場に寄ったのは1時間ほど前だ。しかしいつの間にか、ジョセフの姿が消えていたのだ。
はぐれた…というなら、まだ良い。
けれどもしそれがディオの刺客による謀略ならば、ジョセフの身に何かあった可能性が高い。
だからメンバーは今、手分けしてジョセフを探しているのだ。

「…あの野郎、もしその辺で道草くって、買い食いでもしてたとかだったら、許さねえ」

そうは漏らしてみるが、こんな戦闘の続く旅の中、ジョセフがそのような愚かな行動をとるなんて、承太郎も思っていなかった。
だからこそ、嫌な予感が止まらないのだ。

「…もう一度…今度は逆側から回ってみるか」

承太郎は踵を返し、速足で元の道を戻ろうとした。
そのとき、軽く視線だけやって通り過ぎようとした路地の奥で、微かな声がすることに気づいた。


「へへえ〜…可愛いお譲ちゃんでちゅねえ。お兄ちゃんが遊んであげましゅよお…気持ち良いことしようねえ?」
「よせ、やめろっっ!!」


それは粉うことなき「変態」だった。
後ろからではなんとなくしかわからなかったが、今の台詞から見て、明らかに嫌がる子供を押さえつけ、その「変態」は「不埒な真似」をしようとしていた。
承太郎は急いではいたが、目の前で変質者に襲われそうになっている子供を見捨てるほど、正義感に欠けているわけでもない。
そこで彼は手っ取り早く、その「変態」を後ろからひっ掴み、空中にほおり投げた。
そのまま、釈明すら許さぬうちに、オラオララッシュで袋叩きにし、遠い彼方へと飛ばしてしまう。
「幼児を欲望の捌け口にしようとする奴は生きる価値なし」
それは幼い頃のジョセフの教えだったが、承太郎もまた同感だった。
何せ、承太郎自身も幼い頃は大層可愛らしい子供であったため、そのような目に合いそうになったことが、何度もあったのだ。
ちなみにそれらの輩はほぼ全員を、自らの手で「死んだ方がマシ」という目にあわせてやったが。


「ひげええええええええええっっ!!」


良くわからない悲鳴をあげたまま、男は飛んでいった。
承太郎はたった今まで、男にのしかかられていた子供に近づき、「おら、大丈夫か?」と背中からその子供を抱え、起してやる。

「承太郎!―――ジョースターさんは見つかった?」

ちょうどそのとき、花京院がポルナレフたちを連れてやってきた。恐らく自分たちの割り当てを探し終わり、それでも見つからなかったため、合流してこちらに来たのだろう。
「いや、まだだ…」
承太郎はため息をつき、とりあえずジョセフをもう一度探しに行く前に、この子供をなんとかしないと…と、起こした子供を見下ろした。
すると。

「承太郎、わしじゃ!」

「っっ!!!???」
稚い声で叫びぐいぐいと袖を引っ張った子供に、承太郎―――だけでなく、一行も目を剥いた。承太郎が慌てて子供を覗き込むと、そこにいたのはまだ3、4歳であろう、黒い髪の大層愛らしい子供だった。
面影はそこはかとなく残っているという程度だったが、承太郎を確信させたのはその口調と、何より「瞳」だった。
幼い頃から、何度となく自分に向けられてきた、宝石のような緑。
承太郎は思わず子供の腰に手をあて、目の前まで持ち上げて唖然とした声で問いかける。


「て、てめえ…じじい、か?」
「「「えええええええ―――っっっ!!!???」」」


なんとなく最初の台詞から見当がついていたものの、ポルナレフたちから叫び声があがる。
しかしそのとき、そんなことすら吹き飛ばすほどの「事件」が起きた。
ジョセフの身体から、すぽんとズボンが下着やベルトごと、落ちたのだ。
それは当然だった。普段のジョセフと、今の推定3、4歳のジョセフでは、全くウェストの太さが違う。
上に着ていたシャツは、承太郎が腰を持ったことで固定され、片方の肩が大幅に出るだけで済んでいたが。
しかし承太郎は、目の前に露わにされたジョセフの下半身に、目が釘付けになった。

それは何も、承太郎がジョセフに対して身内の情愛以上のものを抱いているから…という理由だけではない。
例え相手がジョセフでも、相手が幼児なら、そんな劣情は沸くはずはない…はずだ←(笑)
問題はそんなことじゃなかった。

「ない」―――のだ。男なら当然あるはずの「シンボル」が。

「じ、じじい…てめえ、まさか実は女…」
「あほうっ!んなわけ、あるかあああああっっっ!!」

怒ったジョセフ(ミニ)がごちんと承太郎の頭を帽子の上から叩いたが、今のジョセフの力では、何ほどのものでもない。
しかしそのとき、別の人間の声がした。
「あ、ホントにない」
何時に間にか近くまで寄ってきていたポルナレフが、ジョセフのむき出しの下半身をまじまじと見て、そう漏らしたのだ。
その瞬間。
ぶちっと何かがキレた音がした。


「見るんじゃねえええええええええええ―――っっっ!!!!」


承太郎がすさまじい声をあげて、ポルナレフをアッパーで弾き飛ばし、それを先ほどの変質者とは比べ物にならぬ勢いで、スタープラチナがオラオララッシュした。
「げふうっ!」という声をあげて、ポルナレフは血を吐き、地面に打ち付けられた。

「あーあ」
「…ポルナレフ、馬鹿な奴」

少し離れた場所からそれを見ていた花京院とアヴドゥルは、そろって合掌した。
二人とも、承太郎のジョセフに対する並々ならぬ執着には気がついていたため、事態に気づいた瞬間、咄嗟に距離を取ったのだ。
まこと、賢明な判断だったと言えよう(笑)
ともあれ、ここが彼ら以外がいない、路地裏だったのは幸いだった。
もしたまたま通行人でもいようものなら、承太郎は暴れるゴジラよろしく、周辺のものたちを残らずなぎ倒していただろうから。

「じじい…とりあえず、これ着てろよ」

ともかく、ジョセフの肌を隠すのが先…と、承太郎は制服の上着を脱いで、何故か少し顔を赤らめて差し出した。
恐らく彼氏の上着を着る彼女的な、甘酸っぱいものを想像しているのだろうと思われたが(笑)
そんな孫の内心など、露とも知らないジョセフ(幼女)は、それを着て可愛らしい声でぼやいた。



「…重い」

おわり


ジョセフが幼児化したら可愛いに違いないというだけで書いた話(笑)

H27.6.1(ピクシブより転載)

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