@ さよならのうた

  

「じゃあね!」
「バイバイ〜!」

  

下校途中であろう生徒たちが、次々と挨拶を交わしながら、校門の手前で道をたがえていく。その様子を少し距離を開けた場所からぼんやりと眺めながら、彼はそこに立っていた。夕焼けを背にした生徒たちの影が、幾度も視線の先を通り抜けていく。

夕暮れ時は好きじゃない―――かつて一番大切だった人と一緒に見た、あの切ないくらいに綺麗だった情景を思い出してしまうから…。

それでもついついこの時間帯に足を運んでしまうのは、下校帰りの生徒たち―――正確には『制服』を来た少女達を見ることが出来るからだった。

会えなくなって100年近く経つ今ですら、彼がどうしようもなく焦がれている『少女』は、あの頃、この学校の制服を普段着としていた。あまり自らの装いには興味を持っていなかった彼女のこと…それは多分、ほんの気まぐれだったのだろうが。
それでも数年前に、偶然この制服を身に着けた生徒たちを見かけたときには、心底驚いた。

ひとつの形代すら残していかなかった彼女の、名残を見つけたような気すらした。
そんなはずなど無いと、わかっているのに・・・。

それでも彼は時々ここに立ち寄っては、下校帰りの女生徒たちを眺めることを止められずに居た。

『あの娘』の面影も、気配も、何もかも―――そこには何一つ存在していないと理解できているのに、それでもたった一つの可能性にすがる探求者のように、『あの少女』の形を捜すことを止められなかった。

(止めよう・・・もう、止めよう)

すでに何百回目かわからないつぶやきが、また心をよぎる。これもいつものことだ。
ただ1人の面影を追い続けている心は、いつだって期待と絶望を、行ったり来たりしている。
それでも求めるものを見つけ出せる可能性など、万に一つも無いことは、自分でもわかっていた。

どれだけ捜したって、見つかるはずなんかない。
『あの娘』はもはや―――彼には手には届かない場所へと、独りで行ってしまったのだから…。

あそこを歩いているあの娘も、今走っていったその娘も、似ているけど皆『彼女』じゃない。

  

(そう、今門を出てきた、あの綺麗な長い髪の娘だって・・・・・――――っっっ!!??)

  

その瞬間、彼の時間は止まったような気がした。
目に映ったものが、信じられなかった。

視線の先にいたのは1人の少女だった―――華奢で小さな身体。腰まで届く緑の黒髪。
歩く少女に合わせて、伸ばしっぱなしにされたその長い髪が、サラサラと音をたてて揺れているのがわかる。

それを邪魔そうに手でおしやる面影に、彼は確かに覚えがあった。

(まさか―――そんな、まさか・・・)

無いはずの心臓が、早鐘のように鳴り響く錯覚を覚えたが、その視線は少女から離れなかった。

他人のそら似かと一瞬思ったが、それにしてはあまりにも似てる。似すぎている。

否。

(―――間違いない、あれは『彼女』だ!!!)

胸の奥から湧き上がるような『愛おしさ』が―――身体中に満ちる『歓喜』が、確信を与えてくれる。

生まれ変わり?

それとも地獄からの逆戻り?

何だって構わなかった。

  

「・・・・・・・お嬢・・・」

  

漏れた声は本人ですら流せることを知らなかった、涙ににじんでかすれていた。

   

                                つづく

 

          てなわけで、地獄少女初裏のプロローグとなります。

            予定では、必ず途中で裏・・・が入る予定ですが(笑)、今のところ裏部屋を別に作るかは決めかねていますので

            しばらく表で連載することにします。(でもその部分はおそらく隠しにするかと・・・)

                                                               H19.9.18

 

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