どうしようもない僕にサンタが降りてきた

 

 

クリスマス・イヴのその夜、承太郎は不思議な夢を見た。
物音に目を覚まし、リビングまで様子を見に行くと、そこにはキラキラと輝く光のソリと、唄に出てくるような赤い鼻をしたトナカイ。
それに、プレゼントらしい箱がこぼれた袋を覗き込んで泣いている、サンタクロース姿の祖父、ジョセフ・ジョースターがいた。

(…なんだ、夢か)

泥棒かと内心警戒をしていた承太郎は、すぐさま警戒を解いたが。けれど”夢”とはいえ、憎からず想っている祖父が泣いているのをほおっておくことなど出来ず。
「じじい、何を泣いてるんだ?」
「うおっ!承太郎っっ!?」
思わず側によって声をかけると、サンタ服姿のジョセフはえらく驚いた様子で飛びのいた。承太郎は(そんなに驚かなくても良いだろう)とムッとしたが、ジョセフサンタはえらく狼狽した様子で、慌てたように言った。

「わ、わしはおまえの祖父なんかじゃない!サンタクロースじゃっっ!!」

(…いや、だって『承太郎』って呼んでたじゃねえか)
どう見ても目の前のサンタはジョセフだ。他の誰かならともかく、承太郎が彼を見間違うはずがない。
何せ承太郎は、ジョセフに対して『祖父』というだけではない、特別な想いを寄せているのだから。
しかし、ウルウルと涙ぐんだ目で「サンタは正体がバレるわけにはいかんのぢゃ!」とか言ってるジョセフを見たら、それ以上ジョセフを問い詰められるわけもなかった。
承太郎はため息をついて言った。
「わかった…アンタは『サンタクロース』だな。で、そのサンタがここで何をしてる?何を泣いてるんだ?」
「おまえにプレゼントをもってきたんじゃが…」
ジョセフは袋をもう一度覗いて、うるりと大粒の涙をこぼす。

「プレゼントが無いんじゃ!どっかに落としてきてしまったんじゃ―――もうお終いじゃあああああ!!」

そういっておいおい泣くジョセフを前にして、承太郎は困ってしまう。
「別に俺はプレゼントなんか…」と言ったのは、ジョセフを慰めようとしただけでなく、本心でもあった。
だいたい、自分はかろうじて未成年と呼べる年齢ではあるが、サンタクロースに”プレゼント”をもらうには既に育ちすぎていると思うのだが。
けれどジョセフはそんな承太郎を涙目で睨み付け、「そういうわけにはいかん!わしはおまえに今日中にプレゼントを渡さなきゃならんのだ!さもなきゃ、サンタをクビになってしまう!」とまたさめざめと泣いた。

(…俺のどこから、こんな荒唐無稽な設定が出てきたんだ?)

夢には人の深層意識が影響しているというが、一体自分のどこに、こんなメルヘンチックな設定があったものやら?
承太郎は疑問に思ったが。
ともあれ、このまま泣くジョセフに背中を向けて、ベッドに戻ってしまうことも出来なかった。
何より。
(…ふうむ)
相変わらず、えぐえぐと泣いているジョセフを見て、承太郎は無意識に口の端を吊り上げる。
夢の中で、相手は知らぬこととはいえ、ジョセフは承太郎が内心、ずっと好意を向けている相手だ。そんな相手と”聖夜”に二人っきりというのは、単純に嬉しかった。
何よりこれは”夢”だ。
ここで承太郎が何をしても、ジョセフに嫌われたり、距離を置かれるようなことはない。
ならば少しぐらい―――”無体”を働いても、構わないのではないだろうか?
思わずそんなことを考えてしまったのは、初めて見るジョセフのサンタルックと、子供のような泣き顔が、ひどく愛らしかったためだろうか。
それとも現実でも、今日は”クリスマス・イヴ”という特別な日だったためか。

「じじい、名案があるぜ」
「え?」
涙で真っ赤に染まった目で見上げてきたジョセフの唇を、承太郎はいきなり自らのもので塞いだ。
そして驚きのあまり、目を大きく見開いたジョセフを見下ろし、にやりと笑って言ったのだ。


「プレゼントがねえんなら―――アンタが俺の”プレゼント”になりゃあ良い」


「………は?」

その瞬間、サンタ姿のジョセフは、承太郎によって、その場に組み敷かれていた。
「ちょっ、承太郎っ!待っっ!!??」
サンタジョセフは明らかに混乱し、反射的に逃げようとしていたが。しかしそれはちょっとばかり遅かった。
何故なら承太郎はすばやく後ろから体重をかけてジョセフサンタを押さえつけ、あっという間に腰とズボンのベルトを外してしまったからだ。
その上、素早くズボンと上着の下に手をもぐりこませてきた承太郎は、ジョセフの敏感な場所に露骨に愛撫を加えてくる。
ジョセフは体重をかけて押さえつけられていたため、承太郎の手からは逃げられず、ほとんど承太郎の成すがままになる。

「あっ、やっ!ひあんっっ!!」

ガクガクと自らを支える腕を振るわせながら、可愛らしい声を上げる様子は、たまらなく承太郎を満足させた。あるいはそれはこの夢をみている、承太郎の望み通りの反応なのかもしれないが。
承太郎はそのまま手の動きを止めずに、ジョセフの赤く染まった耳を舐めあげながら言った。
「可愛い声だ…敏感なんだな、じじい?」
「あ、駄目…じゃ、やめっっ!!」
「『ここ』は全然駄目だって言ってないぜ?それどころか、もっと可愛がって欲しいって言ってる…それにアンタは俺の”クリスマスプレゼント”なんだ。なら、たっぷりと堪能しなきゃな?」
承太郎は反論する暇もあたえぬうちに、ジョセフのサンタ服のズボンを下着ごとずりさげ、足から引き抜いてほおりだしてしまう。
そして、むき出しとなった足をつかんで仰向けにし、すでにすっかりと立ち上がってしまっているジョセフ自身を、躊躇いもせずに口に咥えた。

「んああっ!やっ!ん、ん、あああっ!!」

奥まで咥え込んで、奥歯と舌を使って刺激してやると、ジョセフは途端に甘い悲鳴を散々にあげ、頭を振った。
承太郎を引き離そうとしてか、咄嗟に承太郎の頭を押さえつけた手は、しかし快楽に流されて、結局承太郎の髪をいたずらにかき回すだけになっている。
口の中の張り詰め具合から、そろそろ限界だろうと察した承太郎は、それに歯を立て、一気にそれを吸い上げた。


「あああああああっっ!!」


かん高い悲鳴をあげて、ジョセフは導かれるままに、承太郎の口の中で果てた。
承太郎は口を拭いながら体をお越し、激しく呼吸を荒げ、未だ射精の余韻に身体を震わしているジョセフを見下ろす。
そして思った。

(…恋人にコスプレをさせたがる連中の気持ちなんか、死ぬまでわからないと思っていたが)

今ならわかると思った。
今のジョセフを見つめる、承太郎の心情をより正確に言い表すなら「たまらない」だ。
サンタの上着から覗く白い足、快楽で薄紅に染まった頬。
唾液で光る唇に、涙で真っ赤になった瞳。
どうしようもなくそそられた。

(ま、「据え膳食わぬは男の恥」って言うしな)

それにこれは「夢」だ。
ならば今だけは、ジョセフの意思より自分の「望み」を優先しても良いような気がした。
ずっと叶えたかった自らの「望み」。
承太郎は立ち上がると、事態についていけないのか、それとも過ぎた快楽に意識を飛んだのか。
いまだにトロンとした目をしているジョセフを、腕に抱き上げた。
そして、そのまま寝室へと向かい、自分への”クリスマスプレゼント”を、その晩は心行くまで堪能したのだった。



******



翌日目を覚ますと、当然というかジョセフの姿はそこにはなかった。
(…やっぱり夢か)
わかっていたことではあったが、承太郎はあまりの落胆にため息をつく。
それは、昨晩見た夢があまりに「幸せ」であったためだろうか。
夢の中の承太郎は、昨晩ベッドから出ようとするジョセフをその度に腕の中に引き戻し、結局そのまま、眠りに落ちるまで放さなかったのだ。
現実でもああ出来たら…と思う。
「孫」としてしかジョセフに見られていないと痛いほどに自覚してしまっている承太郎には、それは所詮、適わぬ夢ではあったが。

「…起きるか」

このまま昨晩の夢を思い出させるベッドに独りでいるのはどうにもやりきれなくて、承太郎は無理やりにベッドから起きだし、リビングへと向かった。
そこで珈琲でも飲んで、頭を切り替えようと思ったのだ。
しかし承太郎は次の瞬間―――現実は小説どころか、夢よりも奇である。
と思い知らされることになるのだった。


「承太郎のアホーっっ!!」
「ぐおっっ!!」


突然飛んできたイルカのぬいぐるみ(※幼い頃にジョセフからもらったプレゼント。当然未だに大事に持っている)を反射的に受け止め、承太郎は罵倒と共にそれを投げつけた人物を視界に映し、目を見開く。
そこには昨晩の夢と同じように、サンタクロース姿のジョセフが座り込んでいた。
しかも彼は今回も大粒の涙を浮かべ、何かを書かれた紙をもってフルフルと震えている。

「おまえが!おまえが!!昨晩わしを帰してくれないからあああっ!!!」

承太郎は余りの事態に呆気にとられていたが、それでも事態の把握に勤めようと、ジョセフの持っていた紙をとりあげて確認する。
そこには「Notice of dismissal(解雇通知)」との書類の名称があった。
内容を読むとどうやら、「仕事を期限までに果たせなかったため、サンタクロースの資格をはく奪し、解雇する」ということのようだった。
こんな荒唐無稽なことが「現実」にあるなど、いまだに信じられないが、ともあれ、ジョセフがクビにされたのは、多分、間違いなく、昨晩の承太郎のせいだろう。

「せっかく、せっかくサンタになれたのに!!―――わしは来年からどうやってクリスマスを過ごせば良いんじゃあああ!!」

さめざめと泣くジョセフを前に、承太郎はしばし呆気にとられていたが。
やがて我を取り戻し、ジョセフの肩をぽんと叩いた。

「心配するな、じじい―――いまちょうどサンタと似たようなポジションが空いている」
「…?」

承太郎に毎晩”プレゼント”を渡す羽目になるそのポジションは「承太郎の嫁」というものだったが。
そんなことは露知らぬジョセフは、涙目のまま、不思議そうに承太郎を見上げただけだった。
やがて承太郎は、いまだ解雇のショックか、放心状態らしいジョセフを腕に抱き上げて、寝室へと運んだ。
そして、途中で正気に戻ったらしく、慌てるジョセフを軽々と押さえつけ、サンタクロースの代わりにジョセフから、”クリスマスプレゼント”をもらったのだった。



おしまい

2016.3.21(ピクシブより転載)

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