僕たちの失敗 旦那様は7歳児 番外編   

 


それは放課後の小学校の裏庭。
そろそろ部活動も終わり、多くの生徒が家に帰り出しているため、人もまばらになったその場所で、いつもつるんでいる小学4年生の悪ガキ三人組は、今日もたむろってくっちゃべっていた。
もっともその話題は、到底小学4年生に相応しいものとは言えなかったが。

「承太郎、明日、家に遊びにいっても良いかい?久しぶりに愛しいホリイさんに会いたいんだ」
「花京院、てめえの恋路を邪魔してわりいが、今週末は駄目だ―――じじいが家にくる。てめえらの相手をしてる暇なんざ、一秒たりともねえ」
「ああ、噂のお前の自慢の嫁さん。承太郎、一度くらい会わせてくれても良いんじゃね?そりゃ、俺さまが魅力的だから、承太郎にしてみりゃ、嫁がくらりとこねえか心配なのもわかるけど」
「ポルナレフ―――どうやらてめえ、本気で死にてえらしいな?」
「すいませんでしたああああああ!!」

本気の怒気が言葉にこもったのがわかったのか、髪の毛をツンツンに立てている銀髪の少年―――ポルナレフは、すぐさま土下座をした。
何せ、以前親しくなったばかりの頃、承太郎が見せてくれた「嫁」だという写真を見て「え、ジジイじゃん」と本当のこと←(笑)を言ったら、最強のスタンドスタープラチナによって、半殺しの目に遭わされたのだ(あのときはマジで死んだと思った byポルナレフ)。
以来、承太郎の「嫁」については、ポルナレフの中で「取扱い要注意ワード」の刻印が押されていたりする。
それでもついつい余計な失言をしてしまうあたりが、ポルナレフらしいといえばそうなのだが。
そういった失言は一切ない、如才ない花京院は、羨ましげにため息をついて言った。

「ということは、今週承太郎は奥さんと甘々な週末を過ごすんだね…良いなあ、羨ましい。僕もホリイさんと早くそうなれたらなあ」
「まあお袋はじじい以上の難物だからな―――だが、てめえのことは気に入ってる。だから見込みがねえわけじゃねえと思うぜ?」

承太郎は、配偶者がいる自らの母親に対しての友人の恋心を、奨励するような台詞をさらりと言う。
父である貞夫が聞けば「なんで承太郎!俺のこと、嫌いなの!?」と涙目で嘆いたかもしれなかったが、承太郎の良いところは、誰に対しても「公平」なところだ(※「嫁」だけは例外)。

「だが、俺のような方法は勧めねえな…じじいは妙に甘いところがあるが、お袋は身内にも容赦ねえからな」
「僕はキミほど切羽詰まってるわけじゃないから、そういった手段は使わないよ。ホリイさんにゆっくりと僕の想いをわかって欲しいんだ。それに10年後なら、貞夫さんに比べて遜色ない男になってる自信もあるよ」
「気の長いこったな…そういえばポルナレフ。てめえもアヴドゥルに『同じ方法』を試してみるとか言ってなかったか?どうなったんだ?」
「あー、あれな…」

ちなみに「承太郎と同じ方法」というのは、要するに無理強い―――いわば「★イプ」の類だ。
承太郎は件の「嫁」を拘束具で縛って自由を奪った末に、その人の身体を無理やりに手に入れたのだという。
初めて「夫婦の馴れ初め」を聞いたときには、さすがの二人も言葉を失ったが。
しかし承太郎ともともと血のつながりのあった「嫁」は、結局ほだされて、承太郎の想いを受け入れたのだというから驚きだ。
いずれにせよ、現状「片想い」真っ最中である親友二人には、羨ましいことこの上ない。
何せ、承太郎は「嫁」が毎年日本にくる度に、二人でとびっきり甘い夜を過ごしているというのだから。
承太郎から、のろけ混じりにその話を聞かされた単純なポルナレフが、「俺も」と思い立ったのは、ある意味当然といえば当然の結果だったかもしれない。
それがあっさりと失敗したのも。

「マジシャンズレッドに縄を焼き払われて、死ぬほど怒られたわ。『拷問ゴッコ』は友達とやれって」
「うわー、それってキツイ」
「全く相手にもされてねえじゃねえか」
「うるせえな!んなのわかってんだよ!!」

花京院と承太郎の台詞に、ポルナレフは涙目で逆切れする。しかしツンツンに立たせた銀髪が半分くらいの高さになりそうなくらい、落ち込んでいるのは確かだった。
アヴドゥルは孤児であったポルナレフを引き取った、いわば「保護者」的存在で、ポルナレフなりに真剣な恋心を寄せているのだ。
しかし、数十歳の年齢差があり、全く相手にされていないのが現状だった。
もっともそれをいうと、承太郎とその「嫁」などは、50歳以上の年齢差があるのだが(笑)

「馬鹿だな…そんな隙をあたえねえうちに、快楽に溺れさせてやるのが常套手段だろうが。男なんて、弱い部分は決まりきってるだろうに」
「い、いや、だってよお…」
「承太郎、ポルナレフには無理だよ。不器用だから」
「るせえよ!」
「勿体ねえなあ…俺だったら機会があれば、絶対もう一度同じことをするがな。初夜のじじいの可愛らしさと来たら…」
「…そ、そんなに?」
「ああ、もう…たまんなかったぜ」

そこからは承太郎の初夜の暴露話が始まった。承太郎は普段は意外に無口だが、こと「嫁」が絡む限り、かなり饒舌であることを、花京院たちは知っていた。
もっともそのほとんどは、暴露話というよりは、ただの惚気だが。
固かった体が、徐々に熱を帯び、承太郎の手で柔らかくほどけていく艶っぽい様子や、驚きと困惑の表情に、少しずつ快楽が混じり、やがて甘い刺激に支配されていく可愛らしい様子などを。
承太郎は情感たっぷりに語った。
それに花京院とポルナレフは顔をわずかに赤く染めながら、それでも瞳をキラキラして聞き入っている。
承太郎ほどではないが、承太郎の親友だけあり、二人も世間一般の子供よりは、かなり大人びている。
それでもやはり男の子。
「猥談」好きは一緒なのだ。
増してやそれが、親友の成就した「恋バナ」とくれば、尚更だ。


「あ―――っ、羨ましいっっ!!」


花京院が声をあげると、ポルナレフもうんうんと頷いて言った。
「全くだぜ、俺も早くアヴドゥルにそんなことしてえ!」
「なら頑張れよ。でも僕は…さすがにちょっと躊躇うかな。女性に無理強いなんてすれば、心に一生の傷をつける。恋する女性にすることじゃないよ」
「…お袋はおまえに押し倒されても、ビクリともしないと思うがな」
それは承太郎の本音だった。「あの」ホリイなら、きっと花京院に押し倒されたところで、動揺すらしないだろう。
花京院のしたことが気に入らなければ、死んだ方がマシという目に合わせるだろうし、花京院が気に入れば、夫がいることも気にせず、受け入れるだろう。
それだけのことだ。
いずれにせよ、「あの母」に惚れるとは、相当な物好きであると同時に「大物」であるとも思う。
自分なら絶対に御免だが。


そのとき、承太郎の携帯電話が独特の着信音をあげ、はっとなった承太郎はすぐさま開いて電話に出た。
そのことで「相手」が誰なのかは、花京院たちにもすぐにわかった。
彼の世界で一番大好きな人だ。

「…もう、ついたのか。すぐに帰るぜ。10分後だ、待ってろ」

そういうが早いか、「じゃあな!」と承太郎はすぐさまポルナレフたちに背を向け、走り去った。
そのスピードの早いこと、早いこと。もうその背中は見えない。
走り去る親友の背中を微笑ましく見送ったポルナレフと花京院は、ズボンの泥を掃って置いてあったランドセルを持ち上げ、立ち上がった。

「じゃ、俺たちも帰るか」
「そうだね」

二人は夕日をバックに「俺たちも承太郎みたいに、頑張らなきゃなあ」なんてつぶやきながら去っていく。
その様子は大層微笑ましく、まるで小説の1ページのようだったが。
それを見送った―――たまたま裏庭で昼寝をしていて、彼らの会話を頭からすべて聞い(てしまっ)た、生徒たちに「親しみやすい」と評判の承太郎たちの担任教師は。

聞いた会話の、どれを一番問題視すれば良いのかわからず、頭を抱えるのだった。



                                      おわり


H2015.9.6(ピクシブより転載)

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