甘いのはお好き?

 

 

「日本男子は着物や浴衣を着た美人に弱い―――それは形骸化しているとはいえ、着物文化の根強く残っている日本では、昔からなんとなく口にされる通説だ。
しかし承太郎自身は、自分がそうだと思ったことはない。
少なくとも自分を構成する半分の要素は日本人のものではないし、その元となる子供の頃から近くに居た唯一の女性である母ホリイは、当然というか着物の類を余り好んでは着なかった。
だから承太郎も、まさかそんなものにここまで心を揺さぶられるなんて、それまで考えたこともなかったのだ。
しかしそれらの考えを嘲笑うかのように、承太郎は今確かに、目の前に立つ浴衣姿に目を奪われ、身動きひとつ出来なくなっている。
問題はその人物が女性ではなく、それほど若くもないことだろうが、承太郎にはなんら障害にならなかった。
何せ相手は、最近になってようやくこの狂わんばかりの恋情が受け止めてもらえるようになった、長年の想い人なのだ。

「ふふ…どう、承太郎?私と貞夫さんが見立てたパパの浴衣、良く似合ってるでしょ?」
「あ…ああ、」

ホリイに着せられた薄紫の上品な浴衣をまとい、濃いめの紺の帯と金の帯留めをつけた祖父ジョセフは、いつもと違う衣装に居心地が悪いのか、少々ひきつったような、不機嫌そうな顔をしていた。
しかしそれが、ジョセフの端正な顔を引き立てていて、浴衣とひどく似合っている。
ホリイが承太郎に見せつけるように、ジョセフの身体をくるりと一回転させると、承太郎はある一点にさらに目が釘付けになった。
うなじが眩しい―――そんな、世の男どもが決まって着物女性に対して口にする言葉を、承太郎は今ようやっと、わが身に置き換えて理解していたのだ。

そんな状態であったから、気づけば承太郎はここ数年は拒んでいたはずの浴衣にいつの間にか着替えさせられ、「花火大会に行ってらっしゃい」とジョセフともども、家から送り出されることとなった。
もっとも主な原因は「わしも我慢したんだから、おまえも着ろ」とばかりに、珍しくも青筋の浮かんだ恐ろしい笑顔で、承太郎の肩をキリキリ締めつけてきたジョセフのせいかもしれなかったが(どうやらホリイの泣き落としに負けたらしい)
ただ「花火大会」の言いだしっぺはジョセフ自身だったらしく、彼は開催地である徒歩10分ほどの場所にある河原に向かい、並んで歩き出した承太郎に向かい、開口一番謝った。

「すまんのお…わしが花火大会を見てみたいなんて言ったばっかりに、おまえを巻き込んでしまった」
「かまわねえよ。だが今日のは市の花火大会だし、人が多くて、疲れるだけだと思うぜ?」
「そうなのか?ホリイはぜひ見るべきだと意気込んでいたが」

それを聞いて、承太郎はため息をついた。
多分ホリイは気を利かせて、承太郎にジョセフとのデートをプレゼントしたつもりなのだろう。
承太郎の長年の片想いの成就に、多大な貢献をしたホリイは、未だに”母”と”娘”の特権を振りかざしては、そのフォローに余念がない。
しかし実際のところ、市の花火大会など人が多くて、暑くて、くたびれるばかりで、花火をゆっくり楽しむなど、到底難しいことは過去の経験から知っていた。
増して二人っきりになり甘いムードなど、夢のまた夢だ。
それに先ほどから、人とすれ違う度にジョセフを振り返る輩が目に入ってしまい、それも気に入らない。
無論、ジョセフは長身の外国人ということもあり、浴衣姿が注目を集めるのはわかる。
だが片想い歴が長い承太郎は、人一倍独占欲も強いのだ。
そんな承太郎に追い打ちをかけたのは、ジョセフ自身だった。

「うーん、それにしてもこの浴衣という着物は、歩きにくいし、裾がスースーするのお」

ペロリと自ら裾をめくったジョセフの横を、くすくす笑う男女が通りすぎる。膝の少し上まで見えた白い足に、承太郎はぶつん、と自らの理性の音が切れるのを聞いた。
(冗談じゃねえ―――何が楽しくて、アンタのこんな艶姿を、他人に拝ましてやらなきゃならねえんだ!)
承太郎はいきなりジョセフの手をつかむと、横方向に引っ張った。

 

「おい、じじい。こっち行くぞ?」
「うん?」

 

承太郎は突然横道に進路をそらし、河原とは明らかに違う方向へと歩き出した。しかしジョセフは道を良く知らないため、目的地がわからずともついていくしかない。
ただ承太郎が選んだのは、舗装すらされていない砂利道で、当然というかそのせいで、すれ違う人は全然いなかった。
人が全くいないあたりまで歩いてきて、承太郎がやっと落ち着いた息を吐き出したそのときだ。

「おっ」

どうやら花火大会はすでに始まっていたらしい。パーンという大きな音と共に、花火が空で大輪の花を咲かせた。
といっても木々の立ち並んだその場所からは、わずかに隙間からそれが覗ける程度だったが。
それでも嬉しそうに見上げたジョセフの笑顔が花火の明かりによって照らし出されて、承太郎は思わずジョセフを引き寄せ、抱きしめていた。
「じょ、承太郎?」
そもそもここは道ではないので、少し離れた場所から洩れてくる明かりだけでは、わずかに薄暗い。
しかしその暗さでも、抱きしめられて戸惑ったような、少し照れたようなジョセフの表情は、完全に見えていて。
それは簡単に承太郎の身体を熱くした。
”拒まれていない”という事実に、承太郎は歓喜する。

「じじい、今日のアンタ、すげえ綺麗だ―――誰にも見せたくねえ」
「じょうっ…んふっ!」

承太郎はジョセフの唇を素早く塞ぐと、近くにあった木に、ジョセフの身体を押し付けた。そしてそのまま背後の木を利用して押さえつけて、徐々にキスを深くしていく。
「ん…ん、ふっ!…っ…じょ…タロ…ちょっ!!」
キスで理性を溶かされている間に、するりと裾を割って差し入れられた手に、ジョセフは戸惑った声を上げる。
けれどそんなジョセフを余所に、その手は下着の裾から入りこみ、ジョセフ自身を刺激してくる。

「ひあっ!…承太っ…あ…こんな場所でっ!…ううんっっ!」
「煽るアンタが悪い」

承太郎は性急にジョセフ自身を高めながら、余った手でジョセフの腰を抱き、帯を緩めさせた。
そして乱れた浴衣を背後からずり下げ、むき出しとなった肩とうなじに口づける。
「ああっっ!!」
ジョースター家特有の星形の痣に舌を這わせると、ジョセフはびくびくと体を震わし、承太郎の背中にしがみついて声を上げた。
承太郎はそれほどでもないが、ジョセフはこの部分がひどく弱く、性感帯の一つでもある。
おかげさまで、承太郎はベッドでジョセフにいうことを聞かせるときに、それほど困ることはない。
もっともジョセフが感じやすい部分は、ここ以外にもいろいろあって、それは目下のところ、開発中であったが。

承太郎はジョセフの乳房を舐めあげながら、下着をずり下げ、引き抜いた片方の足を脇に抱え込んだ。
その上ですでに着くずれしている、ジョセフの浴衣の下を完全に乱した。するとそこから覗いたジョセフのものは、すでにすっかりと立ち上がり、先走りのもので濡れてしまっている。
その瞬間花火がまたあたりを照らして。
ジョセフは自らの痴態が明かりの下にさらされるのが耐えきれないのか、泣きそうな顔を両手で遮って「見ないでくれ」とつぶやいた。
その様子に承太郎は喉を鳴らす。
幾つになってもこういった可愛らしさを失わない祖父に、その泣きそうな顔に、どうにもそそられて困る。
滅茶苦茶にしたくなる。

「じじい、アンタってホントに可愛いな…食べちまいてえ」

承太郎はジョセフに噛みつくように口づけると、その間にジョセフの先走ったものを指に絡ませ、それを背後から突き立てた。
「ひあっっ!!」
そもそも受け入れる器官では無い上に、無理がある体制だ。痛みも抵抗もかなりのものだろう。
けれど、承太郎の自身はすでにすっかり臨戦態勢に入っていて、途中で止めるなんて、到底無理そうな状況だ。
負担がかかるのは知りつつ、承太郎はそこに突っ込んだ指を、いささか性急に動かした。
「あっ…ひあァっ!…ん、ん、…んゥウっっ!!」
承太郎の浴衣をつかむ手が、こらえきれずにそれを引っ張ったせいで、承太郎の浴衣も上半身がむき出しとなる。
承太郎にしてみれば、それは手間が省けたも同じだったし、今更この行為を止めるつもりもない。
ガクガクと身体を震わせ呼吸を荒げながらも、必死で承太郎の愛撫を受け止めようとする様に、愛しさが募る。
承太郎はジョセフの顔中にキスを落としながら、指を動かし続け、やがて言った。

「わりい…もう我慢できねえ。入れるぜ?」
「ちょ、承太郎、待っ!―――んん、あああァっっっ!!」

脇に抱えた足をさらに持ち上げ、承太郎は自らのものを一気にそこに押し込んだ。
苦痛のあまりか、ジョセフが背中に爪を立てるのがわかったが、苦痛に耐える顔すらどうしようもなく煽られるのだから仕方ない。
ここまででもうすっかり限界だった承太郎は、落ち着く暇も与えず、すぐさま抜き差しを開始した。
最初は準備ができてない状態で無理やりにつっこんだため、ぎこちなかったジョセフの内部は、だが徐々に解れて、動きがスムーズになっていく。
ここ数か月の、承太郎の努力の賜物ともいえるだろう。
「…あっ…ひあ!…ああんっっ!…」
その頃には、ジョセフの声にも、どこか甘ったるいものが混ざりだして。
承太郎は早々にフィニッシュを決めるため、己のものでひと際激しく突き上げ、同時にジョセフのものを握りしめた。
本当は後ろだけでイカせてやりたかったが、さすがにこの状態で長引かせるのは、自分的にもジョセフ的にも、酷だとわかっていたため。

「ああアアアっっっ!!」

甲高い悲鳴を上げて、ジョセフは承太郎の手の中で果て、同時にその締め付けで承太郎も内部で達していた。
はあはあと荒い息をつくジョセフを、承太郎はきつく抱きしめ、キスをする。
けれどさすがに無理を強いすぎたのか、ジョセフはそのまま意識を失ったようで、ずるずると脱力した。
それを支えながら、承太郎はゆっくりと自らのものを引き抜き、ジョセフの内股を自らの放ったものが伝うのをみて、満足げに口の端をつりあげた。
本当ならゴムを使うか、外出ししたほうがジョセフのためには良かったのだろうが。
でも我慢できずに、また中でそのまま出してしまった。
きっと目を覚ましたら、怒られることだろう。野外で行為に及んだことも、中でそのまま出したことも。
けれど最後にはきっと、しぶしぶという体で許してくれるに違いなく。
そう思えることがひどく幸せだった。
わずか半年前には、考えられなかったことだ。
こんなふうに自分の想いを、その熱情を受け止めてもらえるなんて。

承太郎はジョセフにもう一度口づけると、衣服の乱れを一通り直して、その身体をゆっくりと抱きあげた。
脱力した身体は、体格がそれほど変わらないことを思えば、到底余裕で持ち上げられるようなものではなかったが。
スタンドの力を借りた承太郎には容易かった。

 

「…ん…う?」

目を覚ましたとき、そこはいつもジョセフが使っている離れだった。
どうやら布団で眠っていたらしく、ジョセフは状況がわからず、上体を起してキョロキョロとあたりを見回す。
すると。
「目え覚ましたか?」
「っ!承太郎?」
背後から聞こえた声に身体の向きを変えて振り返ると、承太郎の顔が目の前にあった。
どうやら彼はちゃっかりと同じ布団で寝ていたらしく、ジョセフの腰に当たり前のように腕を回す。
もっとも彼の想いを一端受け入れてからは、日本に来たときの独り寝は、承太郎にもホリイにも(笑)、大概却下されているが。
「…わしは一体?」
「覚えてねえのか?」
そういって自らの胸元に伸ばされた手を無意識に視線で追ったジョセフは、そこにあった鬱血の痕に、一糸まとわぬ己の姿に、唐突に意識を失う前にあった事態を思い出す。

「っっ!!!」

思わず承太郎の腕を振り払い、腰から下にずり落ちそうになっていたシーツを巻きつけ、縮こまる。顔がぼっと熱を帯びたのがわかった。
幾ら人通りがないからって、あんな場所で、あんなことをイタしてしまうなんて。
羞恥のあまり、顔から火が出そうだった。
なのにその原因となった男は、いけしゃあしゃあとこんなことを言うのだ。

「すまねえ。浴衣姿のアンタがあんまり艶っぽいから、我慢が効かなかった」
「っっ!!だ、だからってあんな場所でなんて、見境無さすぎじゃあ!!」

ジョセフの涙ながらの抗議に、しかし承太郎は軽く肩をすくめ、逆に睨み付けるような目をして言った。
「それは否定しねえ。だがアンタも悪いんだぜ?―――あんな風に誰彼かまわず、他人の目を惹きつけるから」
それを聞いてジョセフは、そういえば承太郎が自らを道のはずれに連れ出す前に、数人の男女とすれ違い、彼らが自分たちを振り返っていたことを思い出す。
しかしそれは自分に関していえば、物珍しかっただけで、承太郎が目くじらを立てるようなことでも無いような気がする。
それに。

「なあにを言っとるんじゃ!振り返っていた連中のほとんどは、おまえに見惚れとったんじゃぞ、承太郎?―――何せお前はレッドフォードやコスナーも歯が立たんくらいの男前だからな。さあっすがわしの孫じゃ!」
「っっっ!!!」

その好意に、以前とは明らかに違う感情が加わったとはいえ、ジョセフにとってやはり承太郎は自慢の”孫”なのだ。
だから、彼が他人の視線を釘付けにするのは、ジョセフにとっては嬉しいことで。
もっとも、本当に”嬉しい”だけかと問われると、こういう関係になってしまった今は、否定しきれないものもあるのだが。
だがその辺りは口に出さない程度の大人の矜持や嗜みは、ジョセフにも無論、持ち合わせがあった。
しかし人一倍頭がキレるのに、同時にうっかりで天然気味なのも、ジョセフ・ジョースターという男で。

「だいたい、その程度のことで嫉妬しとったら、わしなんか一体何回…んうっ!?」

いきなり話の途中で口づけられて、ジョセフは目を見開いた。
「ん、んむうっ?」
反動でそのまま布団に倒されて、ジョセフは見下ろしてくる承太郎に、目をパチパチさせる。
承太郎の目には数秒前には確かになかった、明らかな”熱”が戻っていた。
何がなんだかわからないジョセフを余所に、承太郎はクッと笑う。
それは長年承太郎を知っているジョセフにしても、見惚れてしまうくらい、魅惑的な笑みだった。

「アンタにしちゃあ上出来の口説き文句だ…一体どこでそんな手管を覚えたんだ、じじい?」
「はああっ!?わ、わしはそんなつもりじゃあ!!」
「例えアンタにそのつもりはなくても、俺のここは完全にその気になっちまった―――アンタがあんまり可愛いこと言うからだぜ?責任はとってくれるよな?」
「んな無茶な…んむっ!!」

巻きつけたシーツを有無を言わさず引きはがし、唇を塞いで覆いかぶさってきた承太郎を押しのけることなど、無論先ほどの行為ですでに脱力気味だったジョセフには叶わず。
その晩は再び気を失うまで、承太郎に攻め立てられることとなった。
当然ジョセフは「誰に何と言われようと、浴衣なんぞもう二度と着るかあああ!!」と心に誓ったが。
しかし娘にはべた甘のジョセフは、結局ホリイの泣き落としには逆らえず。

その後も数度この夏に、同じようなことを繰り返すのだった。

 

おわり


なんかとりあえず夏をネタにかきたくて、衝動のままに書いた作品^^;
まあたまには報われた幸せそうな太郎さんがかきたくなったというのもある。
うちのホリイさんはいつだって、全力で太郎の初恋を応援してます。

H26..9.27(ピクシブより移動)

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